静かな部屋に響く、二つの音。




退屈だった。
昼休み前の残り一時間、しかもよりにもよって英語。

受けたくねぇな…
第一、何であんなモノやらなきゃいけないんだ。
―よし、たまにはサボったっていいじゃないか!

一人悶々と考えた結果そう思い立って、休憩の間にさっさと部室に向かったところ、先客がいるらしい。
丸井先輩とか居るとチクられそうだからイヤで、一応窓から確認してみたら、マネージャーの先輩が机に頭を乗っけてぼーっとしていた。
先輩がサボりなんて珍しい。
ちなみに、どうせだから脅かしてやろうと作戦を立てていたら、ばっちり目があってしまってあえなく失敗した。


「ちぃーす。」
「おはよー…」
「先輩、サボって良いんスか?」
「赤也と違って真面目だから。
 それにこれはサボりじゃなくて、遅刻して入りづらいから時間潰してるだけだし。」
「それ余計質悪いッスよ!」
「どっちみち君も同罪だろう、赤也君。」


俺が部室に入って行くと、いつものように言葉のキャッチボール。
先輩と俺はいつもこういう感じ。
俺が密かに恋心を抱いてる(って何か恥ずかしいな)のは内緒。

痛いところを突かれてしまい黙り込むと、先輩はおかしそうに笑った。


緊張ながらも隣に失礼させてもらって、ふと目についたのは机の右端にあるルービックキューブ。
ご丁寧に2個並んでいる。
そういえば昨日丸井先輩と仁王先輩がいじってたっけ。
まぁ経緯なんてどうでもいいや。

「勝負しません?」

ちょうどよく退屈しのぎ(そして先輩と二人きりで緊張してるのをほぐす方法)を思いついた。

「勝負?何で。」
「コレで。暇だから。」

俺は目先のルービックキューブを持ち上げると、先輩に一個を手渡す。

「暇なら授業受けなよ。」
「先輩、人のコト言えないでしょ?」

そう切り返せば今度は先輩が言葉に詰まるもんだから、同じように俺も笑う。

「…いいけど。あんましやったこと無いんだもん。
 ―どうやって勝負すんの。」

少し面倒くさそう、でも楽しそうな先輩。
何だかんだでやる気満々じゃんか。

「単純に先に出来た方が勝ち、みたいな。」
「まぁ普通だね。」
「手とかで相手の妨害は禁止。
 動揺させたり、惑わせたりするのはアリ。でどっスか?」
「いいよ。何か仁王が得意そうな分野だけど。…で?」
「で?」

案外あっさり承諾した先輩が目で促すのは、お約束のアレ。

「勝負ってくらいなんだから、何かあるんでしょ?」
「モチ!良く判ってる。
 ベタに敗者が勝者の言うこときく、は?」

言いながらちょっと卑怯かも、と思った。
俺は頭使うモンでも遊びだったらそれなりに出来るから。
先輩は本人も言ってたし、いじってるのを見てる感じでほぼ初めて。
だからいつも賭ける時みたいに、負けたら奢るって言わなかったんだ。

「…変なこと言うなよ。」
「勝ちゃあ良いんスよ、先輩が。」
「挑発的だね、赤也君。」

先輩も十分挑発的である笑みを浮かべる。
負けん気の強さは同等みたいだ。






「よーいドン」、でスタート。
途端に様々な言葉が飛び交う。


「あっ、幸村部長!」
「ヘー怖イナァ。」
「…」
「誰が騙されるか。」


「先輩電話ッスよ!」
「電話に出んわ。」
「寒っ!!」
「何とでも言え。」

飛び交う、というか俺が一方的に茶々入れて、先輩がつれなく返すみたいな感じ。
だけど必死に無作為に回し続けてるルービックキューブは、余裕の無い証拠。
ムキになっちゃって。可愛いな、先輩。
まぁ俺の作戦はことごとく失敗してるけど。



さすがにネタも尽きてきて、「ちぇっ」とか「あ゛ー」とかしか口から発されなくなった頃、おもむろに先輩がこちらを向いた。


「ねぇあかやー」
「ん?」
「スキ。」
「え゛?!」


思わず振り向く。

それは不意打ち過ぎです、センパイ。


かちゃかちゃかちゃかちゃ


一つになる単調な音。
止まっているのは勿論俺の方。


「ちょっ、センパイ!?」
「動揺させるってのはこうやってやるんだよ。」

クルクルと色を変え続ける手は止まらない。

「でも!」
「五月蝿い。集中できない。」

だって、ねぇ本当に?
かすかに赤い顔が、作戦だったらどうしよう。
やられた。勝てませんって。



とにかく今俺に出来ることは一つ。
かつてない集中力で四角い物体に向かった。





心理作戦 それとも?





071227 某素敵バンド(笑)のサイトにルービックキューブの写真が載ってて思いつきました。 赤也君はどうしてもヒロインさんが強い話が多くなる。 途中まで強かったのに…ツメが甘いぜ赤也君。