夕飯の買い物中、母が「トイレに行ってくる!!」と突然叫び、私と買い物カートを置き去りにしてしまった。


仕方なしにカートを押しながら店内を徘徊していると、

「え、」

と間の抜けた声。


何かと思ってそちらを見やると、呆けた顔をした可愛い可愛い後輩が、鞄を地面に落としているところだった。




「赤也?」

らしくないミスをしたまま固まっていたので声をかけると、立海のワカメエースこと赤也は、
突然起動し始めたかのようにわなわなと肩を震わせながら私を指差して、

「せ、せ、せせせ先輩新妻…!!」

と、見当違いな叫びを店内に響かせた。





「なんだ、そういう事なんスか…」

立ち止まると邪魔なのでゆっくりとカートを押しながら、取り急ぎ説明する。

「そうだよ。もう、新妻ってさー」
「だって!」
「はいはい…あ、すみません!」

思わず笑ってしまったせいで噛みついてくる赤也を適当に宥めていると、すれ違う人にぶつかりそうになって慌てた。

カートを押すのって難しいんだ…


「奥さんへの道は遠いなぁ…」

思わぬトラップを発見し苦笑いすると、赤也がきょとんとした目でこちらを見る。

「何で?超似合うッスよ先輩。」
「いや、カートを押すのも食材買うのも初心者以下だなぁと…」

思ったんだよ、と告げると、まっとうな答えが飛び出した。

「え、そんなん練習しかねぇじゃん。一緒に練習しようよ。」

―そう、一部を除いて。


「…そりゃ、そうだけど。
 なにゆえ一緒に?」

理由が見あたらず首を傾げると、しまった!と言わんばかりの赤也の顔(その顔がちょっと面白いと思ったのは内緒)。

「え、なに。私答えづらいこと聞いた?」

あまりにも焦った顔で口を噤もうとするものだから、今のどこらへんに地雷があったのか余計に判らなくなる。


「……赤也?」
「あぁ、もう!」

またもや動かなくなってしまったので、様子を伺おうとひょっと顔を覗き込む。
すると、赤也は頭をかきむしってから私の手を取り、

「俺、先輩が好きなんスよ!だから!!」

と、真っ直ぐすぎるほど明快に答えた。





肌寒かったはずの食品売場が今は暑い。



そんな中、ゆっくり握り返した手のひらに額を寄せて、小さくつぶやく。

「…その、じゃあ、一緒に練習、して下さい。」




手放されたカートが壁にぶつかって売り物を雪崩させたことに、私たちはまだ気付かない。





衝撃的展開に





090117













絶賛赤也祭(多分脳内のみ)してた去年のお話です。

しかも夏に書き終わってたので、季節違いました。笑
準備段階で08年表記してたよ私。
劉さんもそんなこと言ってたので少し笑えました。