アフターバースデイ




「おっはようブン太郎!どうよ、15歳になった感想は。」

私の想い人だったりするテニス部のボレーのスペシャリスト丸井ブン太は、昨日誕生日を迎えた。

「…お前、その前に言う事があるだろィ」
「あーソウデシタ。誕生日おめでとっ!」



だから素直に祝ってあげたのに…


「…ん。」




何でご機嫌ナナメちゃんなんでしょうかコイツは。


どんなに話題を振っても、「あーそうだな」とか「へいへい」とか、そんな返事ばかりで。
しまいには、「うるせえ。しばらく黙ってろぃ」とまで言われた。(ムカついたから頭叩いて出てきた





怒られる理由が判らない私は、ブン太のお守り役…基、ブン太のパートナーのジャッカル桑原君に話を聞きに行く事にした。


「え、20日?」
「そうだよ、お前学校来てただろ?」
「あー…うん。バレてんだ。」
「そりゃ吹奏楽じゃバレるもなにも無ぇよ…」


そう、実はブン太の誕生日、学校には居た。
ただ部活だったし、色々あったのでテニスコートに行かなかったのだ。


「それで何でヘソ曲げてんの?私ちゃーんと12時にメールしたんだから!」
「いや…そりゃさぁ…」


口ごもるジャッカル。
仕方ないので、たまたま居合わせた柳に話を振る。(ちなみに黙りこくってるけど仁王も居る


「休日のテニス部、しかもブン太の誕生日。
ファンの人数は2.5倍くらいだったでしょ柳?」
「ああ…流石良く判っているな。」
「モチ。何ヶ月見てると思ってるのさ。」

まぁそのデータは良くも悪くもといったモノだけど。

「だからまぁ次の日学校だし、いいかなーって。」


そう、これらがタテマエと言うヤツで。
本音を言えばファンに囲まれているブン太を見たくなかった訳で、
そして最大級の理由は私に勇気が無かったということだ。




だから柳と仁王の言葉は大層私を驚かせた。


「丸井はお前に一番に祝って欲しかったんだろう。」
「しかも学校に来とるのに会いに来んのは凹むぜよ。」


―ただし驚くには驚いたが、イマイチピンとこない二人だったからか、私の考えてる事とかけ離れているからか、
あまり納得出来なかった。

「あー…そんなモン?」

首を傾げる私に、仁王は呆れながら言う。

「立ち位置置き換えてみんしゃい」


言われたんだからやってみるしか無いか、と目をつぶる。



おめでと!
満面の笑みで微笑むブン太。
もしその声を、その笑みを、一番に聞けるとしたら…










いや、有り得ないだろう。


「…だってブン太は来なさそうだし」

そんな夢みたいなコト、ブン太相手に起こりようが無い。

「その来なさそうの中に期待は入っとらんかったか?」






そりゃあ入ってないかと聞かれれば

「…入ってました」

そう答えるしか無い。紛れもない事実だから。

「つまりはそういう事だ。」
「20日の夜、憔悴しきってたんだぜ?」


ああそうか、ブン太もそんな気持ちに…

「私、悪いことしちゃった…謝ってくる。」
「おー気張りんしゃい」
「転ぶなよ」
「早く機嫌直させろよな」


実際はこの時、コイツらの中ではブン太の気持ち=私の気持ちという事が前提になっていて、その事で話にズレが生じてた。
だけどそれを策士共がキレーに誤魔化して、なおかつ私を混乱させ誘導したんだという事に気付くには、
私はあまりにも焦りすぎていて、ただひたすらにブン太を探して走り回った。








むくれたブン太は屋上に寝転がってて、私が来た事に気付いたけど、一瞥してすぐに顔の上に雑誌を乗せて顔をそむけた。
そのそぶりに怯んでしまう。


怖い、だけど、


一度唇をギュッと噛み締めて、口を開いた。


「ごめんねブン太。」
「…何が。」

あからさまに機嫌の悪い声。
原因が私、というのは本当らしい。

「20日、会いに行かなくて。」



その言葉を聞くと、ブン太は面倒くさそうに顔の上の雑誌をどかして起きあがった。
絡みつく目線。
ブン太は寂しげで切なげで、胸が締め付けられた。



「ったくさぁ…嫌われたのかと思ったぜ」

ため息混じりに出てきた言葉は幾分いつものブン太に戻っていて、少し安堵した。


「嫌いな訳無いでしょ!」
「じゃあ好き?」


少し大きな声で叫ぶと、返ってきたのは私を見据える目。


「…え!」
「答えたらチャラにしてやる。
 お前は俺の事好きか?モチロン友情なんかじゃ無い。

 意味、判るよな?」




意味判んない。
どうしてブン太にそんな事を聞かれたのかが判んない。
判ることは答えなきゃブン太とはもう終わりかもしれないって事と、伝えるチャンスだって事。






だったらもう、言うしか無い。



「好き…」


心臓が飛び出しそうなほど主張していて、声はものすごく弱々しくなってしまったけど。
ブン太にはちゃんと届いたみたいだった。


「言ったな?


 あー全く…ホントは昨日俺から言おうと思ってたのによ。」

ブン太は再びごろんと転がると、口をとがらせて声高に言った。

「え、」
「好きだから付き合えって。
 なのにお前来ないし…俺の決死の告白になる予定だったのに。」

どうしてくれんだ、と上目遣いに咎められる。



「私が好きじゃ無かったらどうしてたの…?」

言葉が見つからなくて、ついそんな事を口にしてしまう。
そんな事言ってどうすんの、って自分に呆れた。
それに対する答えは

「好きにさせてみせるから問題ねぇよ。」

自信満々、といった笑顔。

「自信家…」
「まぁ多少勝算もあったし」
「…むかつく。」




複雑な心境が顔に出ているであろう私を見ても、どこ吹く風のようなブン太は

「好きだぜ、」

と囁いた。
そう言われると、もうどうでも良くなっちゃう辺り、愛の力の偉大さを感じたりする。

「…うん。
 誕生日、おめでとう。」


たくさんの思いを込めて、私はそう告げた。










×オマケ×

「来年は絶対一番に祝えよ?」
「んー」

今年のようにファンだらけになるのは目に見えてて、それは難しいかもしれないから、曖昧に返事をした。
するとブン太はニヤリと笑って、

「あ、俺の腕の中で日越せばいいか。」

と私を抱きしめた。

「ちょっ…ブン太!」


「今年の延滞料は」

ちゅっと小さな音と、唇に生温かいもの。

「さっきの告白とコレで許してやるよ。」








070429 え、オマケの方がマトモ? てか長っっっ! 多分武君の2.5倍はあります。笑 誕生日おめでとうブンちゃん! 「遅ェよお前!」 「今年の4月20日は日曜では無いが?」 「しかもお前さんブン太の誕生日、購読しとる素敵マガさんで知ったんやろ。」 ゲフッ… ちなみに協力メンツに意味は無いです。 何をしてても仁王は出てくるトラップ。 「まぁこんなんだけど読んでくれてサンキューな!」 はい、ありがとうございました。 ちなみに題名は若干武祭とかぶせてます。