聴いてようやく気が付いた。

好きだったのは君だってこと。



「その曲良いね」

と言ったのは、部活で行ったカラオケでの感想。

ブン太がたびたび歌う曲は耳に心地良く、かつ鮮烈な印象を与えるもので、歌い終わった彼にそう伝えてしまうのはどうしようもないことだと思う。




素直な言葉を渡すと気を良くしたらしく、そのアーティストのCDを借してくれる運びになり、

数日後、我が家のプレイヤーにお招きすることになったのだった。



ゴツめのヘッドホンで耳を塞いで、準備万端。


「あれ…?」


ところが、流れてくる声はブン太とはまるで違うもので。




もちろん原曲だってかっこいい、なのに


「ちがう…」


知らぬ間に零れ落ちた本音。




そこでようやく気が付いた。

君の歌が好きなんだなぁって。

君の声が、好きなんだって。



「なにこれベタ惚れじゃん…」



思わず一人ごちる。

誰も居ないのに頬の熱さが恥ずかしくて、近くにあったうさぎのクッションに顔を埋めた。









「これ、ありがと。」

「ん。どーだった?」


翌日、昼休み、ご飯を食べ終わったブン太を捕まえてCDを差し出した。


「ふつうだった。」

受け取りざまに笑顔で問われたのは当然の反応だろう。

だけど嘘を付くのもなんなので、今度も率直に答えることにした。


「おいー。そういう時は嫌いでも、『すっごい良かったよ』とか言うモンだろィ?」


当然ながら不満顔の彼。

多分相当好きなアーティストだったんだと思う。



でも、でもね。


「歌い方が想像と違った。」

「は?」

「しっくり来なかったって言うか…うん。」



やっぱり違ったんだ。

駆け引きみたいな言葉遊びに、ブン太は気付いてくれるかな。




「だから、また歌ってね。」

「おっまえ、俺のこと好きすぎだろ。」



自信過剰の天才君は、意味を充分に理解したらしく、満足気に笑ったのだった。





キミノウタ







090825









カラオケの件は割と実話なような。
そういうのたまにありませんか?
ブン太とカラオケ行ったら天国なんだろうなぁ…