「先輩の髪、ズルズル鬱陶しいわ。」 「いきなり何やねん!!」 昼休みもあと数分で終わろうという時分、教室に戻ろうと階段を下っていると、クンっと毛先を引っ張られた。 心底ビビりつつ振り返ると、ポケットに片手をつっこんだ財前が居た。 「ちょ、何なん?めっちゃ怖いわ!!」 「せやから、髪切れや。」 「いやいやいや、ここは謝るとこと違う?」 「春に見てもウザイんやから、夏に見たら死ぬわ。」 「ウザイって…」 彼はマイペースにもほどがあると思う。 私の怒りも何のその、髪を引きながら踊り場まで導くと、自分の言い分だけをふてぶてしい態度で放った。 弁明するならば、いつもはちゃんと結んでる。 今、結んでないのはただの寝坊であって、午後練からはおだんごにでもするつもりでいるのに。 「切れや。」 「し、知らんし!」 「部員でかわええ後輩のお願い聞かへんの?」 「自分でかわええとか言うなや!うち失恋するまで切らへんもん!!」 思わず口走ってしまったのは勢いと言うものだ。 多分、朝練中に小春が「キレイや」って誉めてくれたから、悔しくなったのもあると思う。 「…好きなヤツ、おるん?」 「お、居るけど!?」 財前のことだから、「重っ」とか言うかと思ったのに、彼が見せたのは意外な反応。 少し呆気に取られたものの、言ってしまった動揺は拭いきれなくて、つい、叫ぶような真似をしてしまう。 だから、財前の左手が動いたことなんて、全く気付いていなかった。 「…ほな、」 ジャキ、 「え゛?」 「はよ失恋して、俺の事見て下さい。」 それは一瞬の出来事で、 ハラハラ、舞っているのはさっきまで私の一部だった、モノ。 財前の左手で光る銀色のハサミが、初夏の日差しにキラリと反射した。 髪を切られたという事実よりも、髪が散っているこの状況に、何故か季節外れの紅葉を見出して。 唐突に送られた言葉に、ただ、 「か、」 「か?」 「叶ったから、切る。」 そう返すのが精一杯。 「…俺?」 「うん。」 しばしの沈黙、動けない私たち。 数分後、空気を読まない間抜けなチャイムが、ただ、廊下に響いた。 (ってうわ、美容院行かな!) (…スンマセン) (ホンマや、金出して。) エキセントリック! 100224 ← そ の 前 に 掃 除 !