「最近ね、」


がぼんやりとした様子で口を開いたのは、朝餉を取っている時だった。

いつもと違って箸の進みが悪かったのもあって、何かあったのかもしれないと思い、に向き直ると、聞く体制になる。



「どうしたの?」

「さいきん、ヒスイさんを見てるとね、」

「うん。」



はそこで一旦言葉を切って、天井を見上げた。


の口から翡翠さんの話題が出たこと自体に驚いたけれど、翡翠さんが、何かしたのだろうか。

それとも翡翠さんに何かあったのだろうか。


次の言葉を待っていた私の耳を震わせたのは、想像もつかないものだった。



「むしょーに抱きつきたくなるの。」

「「…えぇっ!?」」


いつの間にか来ていたイサト君と声がハモったり、幸鷹さんが文字通り固まったり、深苑君が扇を落としたりと、突っ込み甲斐のありそうなことが同時に起きたけど、

今はそれどころではない。


目線を泳がせつつ


「これってやっぱ、アレなのかな…」


と呟くの肩をガシッと掴んだ。



「それってすk「父性に飢えてるのかなぁ…」


「「「「は?」」」」


確信に迫ろうとした私を遮って、は恥ずかしそうに笑った。


拍子抜けだ。

勢いを殺がれた私は床に手をつくしかない。

父性?父性って、文字通りに?

確かに家族は恋しいけど…翡翠さんは違う気がするよ、ねぇ。



「お父さんを見出してるのかもって。

 うーん…でもどっちかっていうと、幸鷹さんの方が父親っぽいのにな…」

「私ですか!?」


そう突っ込もうと思ったけど、少し遅かったようだ。

混乱していた上にいきなり矛先を向けられて焦る幸鷹さんに、首を傾げる。

呆れたイサト君は頭を抱えてため息。


まさに混沌な状況だ。








そんな折、心底愉快そうに笑う声が届いた。


「なかなか面白い話をしているね、。」

「あ、ヒスイさんおはよ。」


その主は勿論翡翠さん以外有り得なかった。

翡翠さんは優雅な足取りで部屋に入ってきて、の隣に腰を下ろした。


あんな会話の直後に笑って手を振れるはすごいと思う。

私達なんて、かなり動揺してるって言うのに。



「そこまで年は食ってないと思うけどね。」

「いや、割と…うん。変だよね。」

「良いよ、おいで?」


言っていることは割と辛辣だけど、翡翠さんはやっぱり楽しそうだ。


淡々と、特に恥じらった様子も無いところから、二人に恋情は見て取れない。


だから、ふっと微笑んで腕を広げた翡翠さんの胸に勢い良く飛び込んだの…二人の思いを、私は知り得なかった。




答えはその胸の内に




(すぐに男として意識させてみせるさ)

(でも、こんなにドキドキするのは何でだろう。)









080821 私は翡翠さんの胸板に飛び込み隊です。(かなりマジ あの色気はやばい。やばすぎる。 翡翠さん翡翠さん翡翠さん。 男前ですよね。