おねがい


               私を、














「景時さん、ちゃん付けしないでください。」

「え?」


きっと困るんだろうなと思いながら見上げると、案の定の反応を示す私の恋人に少しだけ笑いそうになる。


「ちゃんって呼ばないで欲しいです。」

「ええぇ!?じゃあ氏で呼ぶの?梶原みたいに??」


ゆっくりと言葉を重ねると、驚いて飛び退く景時さん。


「違います。」


ここまで予想通りだと、逆に心配になってしまう。


とりあえず否であると返事をすると、


「良かったー…距離を置かれたのかと思っちゃったよー」


へらりと笑いながら胸を撫で下ろした。








「でもじゃあ、どういうことなの?」


浮上した景時さんはいつもの明るい口調を取り戻して首を傾けた。

弁慶さんやらヒノエ君なら気付いてくれそうなものだけど、やっぱりそうは行かないらしい。



熱くなる頬を意識しながら、勇気を振り絞ってかの人の目を見た。


「って、呼んで、」

「え?」

「呼び捨てして欲しい。です。」

「な、何で?」


私の申し出が意外だったのか、再びぎこちなくなる振る舞いや言葉に少し参る。

言わなきゃ、ダメか…








ひとつ、深呼吸。

想いを、伝える言葉。





「好きなひとには、呼び捨てされたいから。」







いつまでも“ちゃん”だなんて言わないで。


朔みたいに呼ばれてみたいの。








貴方の、特別にして。












「…っ!」


待ち望んだ言葉と抱擁に、胸が痛いくらい暴れだす。


「本当に嬉しいよ。」

「じゃあ、呼んで、くれますか?」



先ほどの響きが嘘のように思えて、再度聞いてしまう。







景時さんは答えだとばかりに頭に口づけながら、


「」


と、甘く囁いた。








その、くちびるで












081231