今日は俺の誕生日で、すげー沢山の人から祝ってもらった。
俺、幸せモンだなぁとしみじみ思う。



思う、けど。



“けど”だなんて、図々しすぎるのは判ってる。
でもやっぱり

「けどなー…」

たった一つ足りないものがあるんだ。





「あ、山本。」

ドクンと、心臓が一際過敏に反応した。

「?」
「うわ、すごい荷物。モテるねー相変わらず。」

自販機の前にたたずんでいたのは、俺の“けど”の原因になっていたで。
神様コレって運命?むしろ俺への誕生日プレゼント?

「山本?」

ひょこりと覗き込まれる。
うわ、近っ!
呆けてる場合じゃねぇや。
こんな一世一代のチャンス、モノにしなかったらバカだろう。


「今日どうしたんだ?ガッコ来てねぇよなー」

なんて軽口叩きながらコッソリ探る。
うわぁくっだらねぇ。こんな事しか聞けねぇのかよ。
今世界の誰よりもチキンだと思う。

「うん、ちょっと寝坊。4時くらいに起きたもん。」
「ちょっとじゃねーだろそれ。ゴーカイだな!」

上手く喋れてんのか判んねぇくらいテンパってる。
だって俺が今日一番会いたくて、祝って欲しくてたまらない相手だったんだ。(きっとは知らないだろう















ガコンと気持ちよい音と共に

「ん、ビックリ。何かついてきた。」

の楽しそうな声。
缶コーヒーを買ったらしい彼女の手に、オマケなのか赤いプラスチックの上蓋みたいなのが乗っていた。

「アタリだって、ラッキー?」
「スゲーな!」

何でもない会話でも嬉しくてたまらないなんて、大げさすぎだなぁと少し自嘲する。

「プロレスのフィギュアキーホルダーねぇ…おっ、イノキじゃん。」
「やっぱアゴでてんなー」
「そこですか?」
「そこだな。」

彼女はおかしそうに笑った。
それだけで今日一番幸せなんだから俺って安いと思う。



ひとしきり笑ったあと、はさっきと違う柔らかい笑みを見せて、

「私いらないんだけど、山本、いる?」
俺に赤い容器を差し出した。



「え、あ、欲しい」
「え、いるの?…ん。」

何の気も無さそうに手渡されるソレ。

「意外だな、欲しがると思わなかった。
プロ野球とかだったら良かったのにね。」
「いや…」

欲しいに決まってるだろ、って言葉を飲み込んだ。
いや、言えよ、言っちまえよ俺!


「あ、じゃあ私行くわ。」

俺の葛藤をよそに、あっさりとした一言。
一瞬回らなくなった頭を何とか回転させて、次の言葉を探す。

「あ、ああ。サンキューな!」
「イヤ、お礼言われる程のモンじゃないし。
じゃ…まぁ明日は多分行くから。」
「ん、また明日。」

少し照れた顔で手を振ると、彼女は夕焼けに向かって歩いて行った。



きっと何も知らずに渡してくれたイノキのキーホルダー。
明日鞄につけて行ったら、君は気付いてくれるだろうか。







帰り道・キーホルダー・俺と彼女










070424