効く薬、効かない薬




今日で立海テニス部1軍強化合宿も5日目。

このステキな環境にも慣れて来た。

1軍だけだから他のヘルプ回れって言われる事無いし、マネージャー同士の陰口その他に適度な相打ち打たなくても良いし。

…まぁ無いなら無いなりにちょっとつまらないけど。

あとは温泉。

マネージャーは私だけだから、他に利用者がいない時は必ず1人。

男共の後に入ればその優越感を喧しい声で邪魔されない事は2回目の入浴時に確認。

もっぱらそのタイミングを狙って入っている。

部屋は狭いけど、まぁ1人だし。

縦長構造で、言うなら1Kベランダ付。

私立はこんなトコにも金を使うのか…? と思わず勘ぐってしまう。

違うだろうけど。

男性諸君は中規模宴会場みたいなトコで仲良く雑魚寝。

そことは少し離れているので本当に静か。

そりゃ保健室も兼ねてくれって言われるわ…。

現在保健室利用者は初日に来たブン太のみ。

畳で擦り剥くって、一体何をしたんだろう。

以来利用者ゼロの快適環境である。

…多分。




夜10時過ぎ。

は今日のトレーニング内容等を部誌に書き込んでいた。

すると、ドアをノックする音。

返事をするとドア、そして襖が開いた。

「どしたの?」

俯いた銀髪にそう問うと

「頭痛ばするけぇ、薬くれっと?」

だいぶ弱ってる感じで答えた。

「あーじゃあ今薬出すから奥入って座ってていいよ。」

がそう促すと、仁王は「すまん」と呟いて上がり縁から少し行った所で、壁に頭と背を預けて立膝で座った。

頭痛がする時は得てして喋りたくないし人の話も聞きたく無いモノ。

自分の経験を参考にはただ黙々と薬を探し、コップに水を注いだ。

「はい。」

薬と水を渡すと、無言のまま受け取りそれを飲む。

空になったコップを仁王から受け取ると

「落ち着くまで居て良いから。」

短めに言いたい事を伝えた。

仁王は軽く頷くと、深く息を吐いた。




は再び卓袱台に向かい部誌を書き始める。

ちらと横を見れば、向かいの壁を焦点危うく眺めている仁王の姿。

整った顔付きは女から見ても羨しい。

羨望のまなざしに気付いたのか、仁王は視線をに向けた。

ただ呆然と眺めてました、じゃおかしいと即座に考えたは

「いつ頃から?」

と言葉を紡いだ。

「随分前。」

仁王は視線を壁に戻す。

「もっと早く言いなよ。」

もまた部誌に顔を戻す。

「詐欺師じゃけぇ。」

「敵を騙すには味方から、みたいな?」

「ん事は騙さんから安心せぇ。」

「騙す価値無しか。」

「騙しとぉないんじゃ。」


一瞬、心が騒いだ。


「正直でおれる相手くらい欲しがっちゃ悪かね?」

「柳生みたいに?」

「そげな意味じゃなか。」






きっと彼には分かっている。

私の心が騒いだ事も。

ただ羨しいから見ていたのでは無い事も。

そして、そうなんだろうと思っている今の私も。

嘘つきは嘘を見抜くのも得意だから。

嘘が下手な私には、到底太刀打ち出来ない。

「…じゃあ、どういう意味?」

切り返し方が1つしか思い付かない。


「は俺ん事騙さん。だから俺もん事騙さんて決めたんじゃ。」




何が言いたい





か分かった。


私が嘘を吐かないように、予防線を張ったんだ。

何でこんな奴…。

時計の秒針だけが暫く喋り続ける。






「は、好いちょる男ば居ると?」


秒針の音が消え、代わりに心臓の音が響く。

「…仁王は、どうなの?」

「俺はに聞いちょる。」






言いたくない。

けど嘘を吐いた所で何も変わらない。

胸が苦しい。


「私は…」


何も変わらない…?

違う。変えられない。

変えたいのか。変えたくないのか。

彼にはお見通しなんだろうか。

でも、怖い。

前を見ていられなくなって、俯く。

言葉が、重い。

言えるのか…。

違う。言わなきゃ始まらない。

吐く息が濃く熱い。


「仁王の事…好き。」


それだけ言うのが精一杯だった。

はらはらと涙が零れる。

拭う事すら、今はどうでもいい。

仁王はふわりと彼女の頭を撫ぜた。

はゆっくりと顔を上げる。

さっきよりもかなり近付いている彼の姿。

「俺がなして頭痛いか分かっと?」

を聞く態勢にしてから、仁王は半ば落ち着かない口調で喋り出した。

「見られちょるって思うと気になって来るんじゃ。
 気付けば自分から見るようになって、そうすっともしかして違う奴ば見ちょるような気になって。
 不安で、イライラして。
 じゃけぇの口から直接聞こうと思うたんじゃ。」

大きくて温かい彼の手がの頬を触る。

優しく、そして申し訳なさそうな顔が瞳に写り込んだ。

「俺も、ん事好きじゃ。
 プレッシャーかけて悪かったの。」

止まりかけた涙が再び落ちようとする。

仁王はそっとを抱き寄せて

「落ち着くまでここに居るけぇ。今は泣きんしゃい。」

ぐずる子供をあやすように言った。






暫くはその優しさに甘えようと思った時だった。

「これで頭痛の種も無くなったけぇ、コレもいらんの。」

と言って仁王は何かを卓袱台の上に置いた。

「ん…何?」

彼から離れ、目を擦りながらその手元を見れば、さっき渡した筈の頭痛薬が1錠。

「えっ…?」

驚きの表情で仁王を見ると

「効かんて分かっちょる薬なぞ飲める訳なか。」

しれっとした顔でそう言われた。

優柔不断だった涙が一瞬にして引く。

「騙したな…。」

「頭痛しちょったんは事実じゃ。」

仁王はそう言って企んだ笑いをした。

「何でこんな奴…。」

は心からそう思った。









==========
復帰後初執筆初完成初仁王。
えっと、方言合ってますか?ってかこの人仁王ですか?
そもそも日本語合ってますか?これ読み物として成立してますか?
誕生日に渡せる物が何も無かったので急いで書き上げたので本当に土下座モノです。
いっそのこと渡さないのも有りだと思ったんですが、サプライズ誕生日にはサプライズ誕生日で返そうと思って、
でも誕生日ネタが全く思いつかなかった(程に日が詰まってたのもある)ので、元々別人だったネタを仁王に変えてみました。
ええもう何か本当にごめんなさい。
加筆修正破棄返却、随時受け付けております。
それでは。

2007年8月某日 劉




@@@@@
えへへー。もらっちゃったーー。劉さんに仁王もらっちゃったーー。
載せちゃうから!!返せって言われても返さないからね!!
嬉しすぎて一生懸命ソフトキーボードで夜中にコレ打ってます。

誕生日当日、頭痛に苛まれていたので実にタイムリーでした。笑

本当にありがとう!!!!!!
家宝にしますw
狭霧朋真