大阪在住の彼が、試合の関係で関東にやってくると言う。

出発前日の夜、『最終日はフリーになったんや、デートしよ』と、あまりにも優しい声で言ってきたから、
普段は使いもしないガイドブックを買い込んで、必死にコースを考えた。






彼からすれば関東3日目の朝、待ち合わせの駅前で、肩に大きなテニスバッグを下げた姿を見つけた。

おはよう、と声をかけるのが妙に気恥ずかしくて、にやけてしまう。
久しぶりの白石の笑顔は、柔らかいのにかっこよさを増していてどぎまぎした。


「折角来たんだから観光したいでしょ?どこ行く?」
「いや…の地元行きたい。」
「は?地元?!」
「おお。」


とりあえず場所を移動すべきだと思い彼を伺い見ると、予想外の答えが返ってきて思わず目を見開く。
平然と頷いてるよこの人。


「いや、そんなんつまんないって!だって東京も横浜も近いよ?」


とりあえずものすごい勢いで首を振る、もちろん否の意味で。
だって地元とか無いでしょ。
なのに白石は納得行かないって顔。


いや、何で。そう呟くと、白石は息をついた。


「お前が暮らしとる町並みが見たい、一緒に通学路歩いてみたい。」
「っ、」
「の世界を一緒に見たいんや。」


そう言って手を取る彼は、とてもずるいヤツだと思った。
何か、いつも折れてるのは私な気がする。
強すぎるんだ、白石は。



「公園と、学校しかないからね!」
「コンビニかスーパーで、アイス買お?」


むっつり言うと、白石は満足そうに指を絡めとって、


「切符、どこまで?」


と、券売機に向かう。


「290円、」
「何や、結構近いんやな。」


白石は足取りが軽い上に声まで弾んでいる。
悔しいから強く手を握り返して、そのまま背中に体当たりした。








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