いつも試合を見に来てくれる僕の自慢の彼女の。
…とはいっても、最近負けまくりで立場無しだったんだけどね。
Jr選抜に選ばれて、ちょっとは進歩したって思えるから、
ドキドキと胸が高鳴るのを抑えて彼女に電話した。
何しろ俺、電話するの久しぶりだったから。
トゥルルルルル…
コール音が数回鳴る。
そういえば今時間大丈夫かななんてあとから心配して。
ピッ…
繋がった!!
『ハイ。』
の凛とした声。
顔が緩む。
「もしもし、…!!」
『ただ今電話にでれません。メッセージをいれて下さい。』
なんだ、ルス電かぁ。
「まぁそんな都合よく行く訳ない…か。」
何て入れようかなぁとか考えつつ、続きを聞くと―
『なお。』
『千石清純はメッセージを入れないで下さい。』
ざっくりとしたお言葉。
もしか…しなくても怒ってるよなぁ。
とゆっくり話したのは、いつ振りだったっけ。
テニスやる為にトレーニングして、ボクシングして。
ちっともデートしてない
―どころか一緒に帰ってすらいなくって。
ヒドイ事、した。
俺が思考回路を巡らせてる間も、メッセージは続いてて
…ってんな事あるの?
よく聴けば、何か小さな息遣いがして。
それは言葉になりそうでならなくて、
ずっと、空白は続いてて。
『ねぇ…今すぐ、会いに来て…』
ブツッ…ツーツーツー
電話は切れた。
ルス電とかじゃなくて。
でもそんな事はどうでも良くて。
ケータイとこの身一つで、家を飛び出した。
きっと彼女はそこに居るから。
いつもの場所にいるはずだから。
下らない事言って、笑いあったあの公園。
ケンカして仲直りしたのも、この公園。
奈津がすっころんだり、俺がズブ濡れになったり。
思い出だらけのあの場所。
一秒でも早くって必死に走った。
汗だくになって着いた公園には夕日が優しくさしこんでいた。
はぁはぁと息を切らして、周囲を見回す。
「いない…?」
そりゃ、そうなんだけど。
約束してないし。
こことは言ってないし。
―けど、ここしかないと思った。
ここから俺たちが始まった訳だし。
他に…あったかな。
公園内うろついて考えてみる。
家…とか?
知らないし。
学校とか?
二人とも遠いし。
南ん家
んな訳無いって。
こんがらがった頭で途方にくれて、
ふと前を見た。
いた…。
鉄棒の上に乗っかって、ぼーっとして、
たまに思い出したように回りだす。
ぼんやりとそれを繰り返す彼女は、痛ましかった。
俺は走った。
そりゃもう自己新記録で。
「ッ」
ビクリと体を動かして、こっちに振り向いて。
かすかに口が動いた。
『き よ す み』
って。
鉄棒から飛び降りて、そのままこっちに向かってくる。
胸に飛び込んでくる彼女を受け止めて、ギュッと抱きしめる。
肩が震えてた。
「ごめん。待たせて…。」
俺の言葉聞いたら、もう本格的に泣き出して。
「待った!!待ったよ…ばかぁ。
ずっと、ずっと待ってた。」
Tシャツを強く握って彼女は言う。
しずくが地面の色を変える。
ぱたぱたと落ちる涙は、俺の服にもついて滲んでく。
「ごめん…寂しい想い、させたよね…。」
「…寂しくない訳、無いじゃん。
―さないからね!」
キッと俺を睨んで、言った。
「絶対、許さないんだから!バカスミ!アホスミ!エロスミ!」
涙で赤く腫らした眼。
「…最後のはあんまりカンケーないよ…?」
「うるさい!だってエロスミでしょ!?
―次の試合、勝たなきゃ許してあげないから!
次の次の試合も、次の次の次の試合も!」
勢い良く叫んだ。
公園全てに響き渡らせるように。
「あたしを、恋人をこんなに待たせた罪だよ!
さもなきゃ絶対ぜーったい許さない!」
言うだけ言って、俺の体をぐっと押しのけてスタスタと歩き出した。
我慢してくれてて、それでも俺のことスキでいてくれてて。
強くて、キレイだった。
彼女の優しさに心が熱くなる。
「」
呼ばれて振り返る彼女は、何ともいえない顔。
照れてんだろうか、恥じてるんだろうか。
そんな彼女の額に唇をおとす。
突然の事に体を硬直させて、眼を見開いてびっくりしてる。
「頑張るよ。」
俺の言葉に、戸惑って。
「あっそ…」
目をそらして俯いた。
「だからさ、…
俺だけ、見てて?俺だけを見続けて欲しいんだ。」
俺の素直な気持ちを素直に言った。
「―それって、ズルイ。」
ま、当然の反応だ。
けど言葉と心は違うみたいで、嫌われてはいないみたいで。
「ん、ごめん。」
「連絡入れないで、飄々と帰ってきて、しかもそれ?
あたしが、清純以外を見る訳ないじゃん。
―ばか。」
すげー、むかつく。
そういってぶつぶつ言う。
「そっか。そりゃ良かった。」
「やっぱ、むかつく。」
皮肉かました後、そっと唇重ねた。
「…新生千石清純の力、見せつけなよ?
でなきゃ縁切るから。」
「え…冗談?」
「マジ。」
マジですかぁぁぁ!?
むっつりした顔でそう言って、でも次には
「頑張れ」
って笑ってくれた。
夕焼け色と、君の笑顔が眩しくて、
頑張るって、絶対に勝つって、心に誓った。
2006/1/3(11/23 掲載)
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アニメで千石が勝ったのが嬉しかったんだよ。
桃城が負けたんだから今となってはちょっと切ないですね。
テニスのトップ2は結局こいつらなんだと最近実感しました。
確実にテニミュの影響もありますが。
それを抜いても好きだったんだなーとか。
しかしこの頃(ほんとはもっと前)からサイト作りたい願望があったんだなぁ。
念願叶って幸せですね。