早く帰りたい。うっとおしいっつの、雨。 ばしゃばしゃ水の中走って。 すっかり濡れネズミ。 「ただいまぁっ…」 息が白くなる、生暖かい空気がけだるさを増長させた。 「あら、お帰りなさい…ってあら!?大変ずぶ濡れじゃないの。」 「いやぁ…あはは」 心配そうな叔母さんの言葉を、濁してごまかす。 「ばっかでぇ。カサ忘れてやんの。」 「へへん。こんな雨カサの必要すら感じんわ。」 赤也は楽しそうにあたしを笑うから、ちょっと威勢を張って見返して、ブレザーを放り投げてそのまま風呂場へ向かう。 「おばさん、とりあえずシャワー行くわ」 「大丈夫なの?無理しちゃダメよ、」 「おぅいぇ。問題ナッシンよw」 叔母さんはかなり不安気だから、さっきみたくまた笑って、グッドサインをした。 翌日。 「ばーか。だから言ったのによ。」 見事に風邪引きやがったバカ。 バカは風邪ひかねぇって言うけど、こいつは自ら行ったんだからほんとのバカ。 「うっさい…つぅか、部活は?」 それでもまだ言い返す余裕はあるらしい。 可愛くねー。 「雨だからオフ」 ―な訳無いけど。 「うそつけ…天下の立海がハメハメハ大王で構成されてる訳無いっしょ…」 はフツーに見破る。まぁそりゃ当然だよな。 「あはは。それかなりウケる!!」 それでもそのつっこみさえも笑い飛ばしてやる。 「部活…行きなよ…あたし看てる暇…無い…で…」 折角看病してやるってのに、熱に浮かされてるはずなのに、まだ人の心配してやがる。 「ヨユーだっての。いいから寝てろって」 「でも…」 頭をぐしゃっと撫でて大サービスしてやってんのに、まだほざきやがる。 ホント可愛くねぇ。病人は大人しく寝てろよ。 「これ以上ガタガタ抜かすと…」 「…あり、がと…」 少しすごむと、もう答える元気も無くなったのか、それとも観念したのか、今度は素直にそう答えた。 ちゃんは風邪をひきやすい体質なの。いつもならカサ持ってるはずなのよ。 なんて、お袋は出掛ける間際までずっと言ってて、(今は飯の材料を買い足しに行ってる)俺自身引っかかる事があったから、に聞いてみた。 「いやぁ…校舎、閉められて。教室にまだあったんだけど。」 “まだ”って事は、やっぱ複数あったらしくて。 やっぱコイツなのかよ…。 「なぁこのカサ、お前のだったりする?」 俺はさっきから隠し持っていた鮮やかな青の折り畳み傘を要に見せた。 「知らね」 はそれを目にした途端、いきなり手のひら返しやがった。 つっけんどんな冷たい返事。 …間違いねぇな、このバカ。 「靴箱ん中に入ってたんだけど。」 追求する、俺。 「誰かが助けてくれたんじゃない?」 次は寝返りうって俺の顔見なくなりやがった。 逃れるかのように。 「だからお前かって聞・い・て・ん・の」 覗き込むようにして声をかけてさらに追い打ち。 「…ぐぅ」 言葉につまったは、 「狸寝入りすんなよ。」 寝たふり。 ってんなもんで騙される訳無いだろ!!ガキかテメーは!! 「頭痛い煩い。」 悪態までつき始めやがった。 「オイ!!」 「いいじゃん。私がスキでやってんだし」 躊躇いの後、ついに自供した。 「良くねぇよ。」 何がスキでやってるだよ。 「…何でさ?」 不服そうな顔。 まぁそりゃそうだけどさ。 「倒れられたら俺が困る。」 て、何言ってんだよ俺!! かなりマジな顔で言ってしまった。 「パシれなくて?」 らしくない発言を冗談だと思ったようで、仕返しにと少し意地悪に笑う。 「あのなぁ、結構マジに言ってんだぜ?」 冗談って思われるのは、酷く心外だった。 普段ならここで引くけど、今日は何故かダメで。 「―お前がいなきゃ、始まんねぇんだよ」 勝手に動く口。 「…ただ。赤也がびしょ濡れになるのがイヤだっただけ」 ポツリと、言葉をもらした。 「えっ…?」 「赤也は、レギュラーだし、強いし、テニス好きだし、いっつもトレーニングしてるし、でも頭悪いし、すぐ真田さんに怒られてるし…」 「おいおい…」 誉めてんのか、けなしてんのか。 「赤也は風邪ひいてらんないから…」 もしかしたら俺の声は聞こえてないかもしれない。 「赤也は元気でいてくれなきゃ、私が困るもん。どんな赤也も、スキ、だけど、元気な赤也が一番、スキ。」 はにかんだ顔は、スゲー可愛くて。 「っ?!」 「だいすき、赤也…。」 言い終わると、すぅっと目を閉じた。 途端に規則正しい寝息が聞こえ始める。 「…寝やがった…。なんて爆弾を落としやがったんだよ…」 ―この位、しないと割にあわねぇよ。 俺は寝てるに軽い口づけをした。 なんか、いつの間に…ってカンジ。 気付けば周りは真っ暗。赤也はすでに居なくて。 しかも話し途中… すごく、ぼんやりと残る言葉たちと仕草は、夢か現か。 とても恥ずかしい事を言ったんじゃないか、私。 まだ頭はぼんやりしてて。 でも動かなきゃいけない気がして、ベッドから離れてドアノブに手をかけた。 小さく開いたドアから顔を覗いた彼と目があって。 そらした眼と、赤い顔。 「あたし何かしたッ?!」 思わず叫ぶ。 「…さぁな」 “しました”と言わんばかりの背中。 「…やっぱり覚えてねーし…」 小さく何か呟いたけど、上手く聞こえなくて。 「何!!」 腕にしがみついて引き留めると、 「ばーか。」 と言って、デコピン一つ。 そして不敵に笑った。 その笑みは始まりを告げていた。
戻 何時書いたのか判らないシリーズ第…何弾だろう? 視点ゴロンゴロンしてすみません… しかし、私は本当に病気ネタが好きだなぁと思います。