寒い…馬鹿したな。 海だって判ってたくせになぁ… ため息をついて一人膝を抱える。 今日は開港祭で。 花火を見る為に4時間前から場所取りしようって話になって、実際に今2時間が 経過した。友人は後から来る子を迎えに行っていて席を外している。すなわち私はお留守番。 別に寂しいって訳じゃないんだけど。 まぁ一人は心細いって事。 それに― 時間はゆるやかに過ぎていき、少しずつ周囲は赤に、そして薄い蒼に染まっていく。 「。」 何をするでもなく座る私の耳に届いたのは私の名前。 思わず振り向くが、誰の姿も無い。何だ、気のせいか。 よっぽど寂しいのかな私。 アイツの声に聞こえたなんて、笑えない。 前を向き直してもう一つため息。 「なーにふてくされとう?」 油断したところに、隣から声。 「に、にお!?」 「よ。」 やっぱり聞き間違いじゃなくて、更に仁王ってのもあってて。 何のためらいも無さそうに、私の左隣に座っている。 え、何これはどういう事ですか? 「なん?一人でこのシートはデカいんじゃ無か?」 からかっているような、本気のような、どちらとも取れないような口調。 こっちは予想外のところに現れて大混乱だって言うのに! とにかく平静を装って、質問に答える。 「人待ち。」 答えが短くなってしまったのは目を瞑って、頼むから。 ぎゅっと目を閉じて祈る。…ってアレ、私が目を瞑ってどうするんだか。 助かったことに仁王は特に気にする素振りも無いようで、さらりと続けてきた。 「ほー、彼氏?」 助かってなかった。 ちっとも助かってなかった。 「うん。」 だけど今度は思いっきりからかう姿勢だと理解したので、本当は違うけど肯定してやる。 どんな反応するのか気になったと言うのも本音。 なるべく無表情で答えると、仁王はピクリと眉を動かして静かに立ち上がった。 「…邪魔したな。」 「うそ。友達。」 行って欲しく無くて、だけどそう言うのは悔しくて、出来るだけ気の無いように訂正した。 「…そ。」 仁王はそれを聞くと、またペタンと力を抜いて座り込んだ。 行かなくて、良かった。 素直になれない自分に少し自己嫌悪したけれど、その反応がやっぱり嬉しかったりもする訳で。 「何、びっくりした?」 更に意地悪なことを突っついてしまう。 調子乗ってるなぁ、私。 「別に。もの好きもおるなぁって。」 「うざいよ。」 そんな軽口に乗る仁王じゃ無いのも判ってる。 負けじと強烈な一言をくれたから、語尾にでっかいハートマークつけて笑顔をお返しした。 「あー…」 お互いしゃべることもなく、しばし言葉を探して。 先に口を開いたのは仁王。 「俺、抜け出して来たんよ。」 部活で見に来とってのぅ、 と小さく呟いた。 「え、じゃあ…戻る?」 行っちゃうのかな、 そう思ったのが今度は完全に顔に出てしまった。 仁王は薄く笑う。 何だ、からかわれたのか、くそぅ。 「今更。友達が戻るまで一緒に居ちゃあよ。」 「いや、それは悪いよ。」 そこまで言っといて私の良心が痛まないとでも思ったんだろうか。 だったら最初から話振るのやめようよ。 何だってんだい仁王君。 「は寂しく無いんか?このカップルやら夫婦やらの中で一人。」 「うるさい。」 「お前さん、一人にしとけんよ。」 言いながら、色気無い黄色のジャージなんて肩にかけてくれる。 じんわりとした暖かさが潮風を遮る。 本当に判ってるんだか、いないんだか。 「あと2時間かー…長いのぅ。 見てみんしゃい。あのカップル、超いちゃついとる。」 「何、ひがんでんの?」 「あいにく不自由しとらん。」 「あーそ。」 「けどは寂しいじゃろ?ほら、どうする?」 ぎゅっと、何のことも無いような顔して、私の左手を仁王の右手が包む。 暖かい。 ああ、もう。 「…ヨロシクオネガイシマス。」 「ん、良かよ。」 ずるい。 無表情の仮面かぶってたくせに、そんな顔して笑うなっての。 「反則…」 「ん、何が?」 「何でも無いよバーカ。」 仁王相手じゃどう考えたって分が悪い。私の負けに決まってる。 だから一緒に居てもらう事にしよう。 それに、ほんとは、ホントのホントは…君に会いたかったんだ。 手を繋いで、もう少しだけ君と。 「うっわー…戻りづらー…」 「やりきれないんだけど。」 「戻らない方がいいぜぃ?」 「あ、丸井君。」 「仁王からメール来て、友達来たら俺たちンとこに呼んどけってさ。」 「…さすが。」 「やってくれるわね仁王。私たちのを…」 「…来ないねー…」 「、捨てられたんやない? 大丈夫、来るまでそばに居るから。」 根回しばっちりな仁王君なのでした☆
戻 070610 仁王は彼氏居ないの知ってます。だからあっさり座り直すんです。 意地っ張りな彼女が大好きで、ついつい意地悪しちゃうんです。