「銀歯痛いからやっぱりもうしばらく待って。」 彼女からの宣告は、あまりに酷だった。 そりゃ無いぜハニィ 「やつれてんな、におー。」 何、どうしたの。なんて、丸井は至極楽しそうに聞いてくる。 俺がへこむなんて十中八九関連だと判っているからだ。 「ちゅー禁くらった。」 「またぁ?何したの、お前。」 「神経が近くてまだ銀歯が痛いからやめろ、じゃと。」 「あー…また何とも言い難い理由だなぁ。」 まっ、ごしゅーしょーさま、 最後に苦笑と共に放たれた言葉が結構深く突き刺さったことを、丸井は知らない。 前の詰め物から1週間、更に3日。 歯医者後に1度軽いキスしたきり。 11日目の朝を迎えた時、俺は正真正銘の限界が来ていた。 前回から学んで、アイツが俺を避けるからだ。 多分は、俺がに触れたら爆発するって判ったんだろう。 けど、近くにすら居られないのだって辛い。 だから昼にと出くわした時、嬉しい反面イライラしてて、“優しく”なんて対応出来なかった。 「なぁ、まだ駄目なんか。」 開口一番がそれか、バカみたいだ。 折角会えたんだから一緒に居るだけで良いとか、そんな気持ちだって0じゃ無い。 だけど触れたいって思ったらもう駄目で、その気持ちを抑えられんくて。 それは、俺だけ? 「だい、じょぶ…」 はしばしの無言の後、蚊の鳴くような声を俺の耳まで届けた。 「大丈夫なら朝言いんしゃい。」 やばい、口から勝手に出る、言葉。 傷つけたくなんか無いのに、失いたく無いのに。 「もういいよ、なんて言えない。」 俺の心境を知ってか知らずか―そりゃ知らないだろうが―、彼女は口を尖らせた。 前回と言い今回と言い、は妙なところで躊躇するから、困る。 可愛さ半分、呆れ半分。 「からして。」 だから、じゃないけど。キスを強請る。 「…え?」 「から、キス。とびきり濃いの。」 「え、や、無理だし!」 すごくうろたえてるのは判る、判るけど。 「流石に俺ももう無理じゃ。 俺が先にやったんじゃ、酷いキスしそうだし。」 俺結構ギリギリ、なぁ気付いとる? 俺が本気だと感じたからか、は観念したように一度キュッと目をつぶり見開くと、俺の方にきちんと向き直った。 「わ、たしだって、ずっとキス、したかった。」 詰まりながらは俺をゆるく抱きしめて唇を触れさせた。 その一言で嬉しくてたまらなくなって許してしまうんだから、俺も随分甘いなと思った。
071117 戻 結局いちゃつき。 何だろ、うん。仁王君意外とお子様だね、みたいな。 いえいえヒロインさん溺愛なんです。 これ怪我・病気シリーズに入れるべきか普通にするべきかちょっと悩んだけど、 怪我の方に入れると内容バレて楽しくないのでこっちにしました。