「におーって、すごいよね。」 「…どうした不躾に。」 練習をぼうっと眺めていただけかと思っていた。 部活終わり、珍しく誰も自主練する気配が無かったので久々に一人で打つことにして。 しばらくするとがひょっこり現れ、だけど特に何をする訳でもなくそこら辺に座った。 彼女が居ることはイヤじゃないので放っておいたんだが、あまりにも始まりが唐突すぎたため、ボールがあらぬ方向に飛んで行ってしまった。 「確固たる自分があるから他人になれるんだよね。そういうの、人間として憧れる。」 ボールを拾いに行く俺に「ごめんごめん」と声をかけつつ話は続いて、の凛とした声が夕暮れのコートに響く。 いきなり何だ、憧れるなんて。普通は言わないだろ。 わざとゆっくりボールを拾いながら、彼女の方へ歩み寄る。 いたたまれなくなって必死に何か言おうとしても、上手い言葉が見つからない。 「…お前さんアホか?」 「思ったことを言っただけ。」 何とか捻り出した言葉がそれなのもどうかと思うが、は気にせずしれっとした態度で口を開く。 「なんかの本を立ち読みしたんだけどさ、自分が無い人は他人が無いんだってさ。 だから、仁王には自分があるんだなぁって。すごいと思うよ。」 「いや…すげぇって…。 ん…?ちょい待ちんしゃい。」 珍しいからの誉め言葉に狼狽えかけるが、ふと気付いて彼女にストップをかける。 よくよく考えると話が違う。 「お前さんの早とちりじゃろ。 それじゃあ自分が無いってことにならんか?」 自分が無いから他人になれるなら判るが彼女の話じゃ真逆だ。 何だ、またいつものおとぼけ論かと思い少しほっとして茶化すと、は至極真面目な顔をしてこちらを見た。 「どうして?帰ってこれる場所があるから他人になれるんじゃん。 私は自分があるから他人があるって言ったんだよ。 それって自分が無い人は他人が無いって事は、境界が無くてぐちゃぐちゃって事だと思うんだ。 仁王他の人に影響されることはあっても乗っ取られることは無いでしょ。ちゃんと仁王は仁王だなって思う。 それに、個がない人間は個がある他の人にはなれないから。」 どこが違うのか、という不満げな声色に心底参る。 こうも恥ずかしげ無く言われると、流石に表情が抑えられなくなりそうだ。 「いきなり告られてんのかと思った。」 今度こそ上手に、(出来ただろうか?) 上手にいつものように誤魔化す。 「自惚れんな女持ちが。」 途端に冷たくなる声と表情に少しへこむ。 ちょっとくらい自惚れさせてくれ、普通そんなこと言われたら期待するだろ。 そうなら良いと思った―願ったんだ。 「女持ちに告るほどばかじゃないよ。」 「それは、体験談?」 「まぁね。…好きでも、言わないよ。」 その言葉はいつも通りのようで、他より少し重かった。 なぁ、曖昧に笑って最後に俯いたのは、何故? ヒュウと木枯らしが吹く。 は顔をしかめて腕をさすり、「寒い」と呟いた。 「何か良く判んなくなっちゃったし、仁王は馬鹿な事言うし、寒いから帰る。」 いくつか理由を並べると、彼女は近くに投げていた鞄を手に取る。 「送って行ってやろうか?」 「彼女。来るでしょ?」 「帰らせるし。」 「鬼かお前は。」 そう言ったは、呆れた―だけど寂しそうな顔だったと思う。 「ばいばい、仁王。」 手を軽く振り返すと今度は少し笑った。 そして、そのままくるりと前を向いて離れていく。 「アレにはかなわんぜよ…」 遠くなる後ろ姿を見送って、頭を掻く。 は自分があると言ってくれたけど、まだ俺は俺じゃない。 一番大事な言葉を、まだ伝えていないから。嘘をついているから。 それまで俺は自分だけど他人だと思う。本当の自分なんかじゃ無い。 「そっちがそう言うなら、期待に応えてやらんとな…」 独り言を、さっきの顔を歪めた風にかき消させる。 そろそろ偽るのはやめにして、君に愛を囁こうか。 君と自分と他人
080127 戻 無駄に長い語りです、すみません。 とりあえずこれ、仁王戦始まった頃から書いてマシタ。 気付いたら試合終わってましたが。うん。 …|||orz||| これは一解釈であって、コピーは不完全と思う方も居るかもしれませんし様々だと思います。 まぁ“仁王大好き”が結局のところ根底なので(笑)、仁王を褒め称えようぜ!みたいな…みたいな…ですよ… ちなみに何かの本ってのは、たまたま立ち読みした心理学の本です。 題名は覚えてませ(ry 取り方間違って…はないと思うんですが。ちょっと持論混ざってます。 仁王君は低糖な話がちらちら出てきます。不思議! 普段書けないジャンルまで走れるなぁ… ちなみに 仁王→←ヒロインさん な感じです。 仁王さんは一応彼女居ますが、本当はヒロインさん好きです。 上手く伝わってると良いんですが…