去年もこんなに寒かったっけ。 白い息がユラユラと漂って消える。 手がかじかんで上手く動かない。 冬だ。まごうことなき冬。 こんな時でも浮かぶのは彼の顔。 寒くてイヤだと駄々こねてそうだ、彼は存外子供っぽいから。 ああ、 去年もこんなに好きだったっけ。 「寒いと好き一緒なんか。」 予想通りに寒がっていた彼にそれを告げると、呆れたような、でもちょっと寂しそうな顔をした。 「あーいや…日常的な事でも思い出すっていうのはどうだろう。」 「聞くな。」 本当のことなんだけど、恥ずかしくてついごまかしてしまう。 それを察しているから彼は笑っているんだろうけど。 「しっかし、一年前の事ねぇ…。覚えとらんの?」 「何かさ、ハッキリそうだったとは言えないじゃん。」 少し苦笑する彼に、うーんと唸りながら返す。 自分で問うておきながら、そうだと言いたく無かった。 何だか自分で自分をないがしろにしてる気がして。 こう切り出すと、彼は少し考えてから頷いた。 「判らんでも無いな。」 「本当?」 「ああ、ホント。」 疑うんか?ってからかいに、必死に首を振る。 優しい声の肯定が、私をすごく安心させた。 「日記でも付けりゃ良いじゃろ。」 「あぁ、良いかも。」 「交換日記とか、するか?」 「雅治が交換日記とか似合わない…!」 「失礼じゃの。」 少し話題がそれ始めた時、思わず吹き出してしまったのは仕方ないと思う。 だって雅治と交換日記があまりにもかけ離れた位置にあったから。 彼はちょっと本気だったんだろうけど、私にとっては突拍子も無い言葉だった。 笑いを噛み締めていると、それがお気に召さないらしい彼はムッと眉を吊り上げて、ほっぺたを引っ張りだした。 「いひゃいいひゃい!!」 「俺すげー傷ついたんじゃが。」 「ぎょめむ!」 「ったく…」 すごいな、判るんだアレで。 ぱっと放された頬をさすり感心しながら見上げると、今度は頭突きされた。 「いたっ!ひどっ!!バイオレンスすぎるよ雅治くん!」 「知らん。仕返しじゃ。」 べっと舌だして、そっぽを向く。本当に子供っぽい言い分だと思う。 まったく、いつもこれなんだから。 そう呟いて、ふと気付いた。 ああ、そっか。 「去年は去年で寒かったと思うし、去年は去年で好きだったと思う。」 「ん。」 突然口を開いた私に、彼は怒ることもなく驚くこともなく相づちを打った。 「今年は今年で寒いし、今年は今年で大好きなの。」 きっとそういうことなんだ。 去年だって好き、今年だって好き。 優劣の問題じゃない。 もしかしたら答えは、ごくシンプルなものだったのかもしれない。 言い終わってすっきりした。 めちゃくちゃ言って矛盾してるかもしれないけど、自分の中にある答えを少しでも掠められたから。 「言い切りか。」 「…おぅ。」 彼はと言えば、私の言葉を聞いてニヤっと笑った。 聞き所はそこかよと思いながらも、照れてぶっきらぼうな返事をすると、額にキスが一つ落ちてくる。 「かわええ。 …良いんじゃねぇか、それで。去年と今年なんてたった1年だし。」 言われてしまえばそれもそうだとも思った。 1年1年は繋がってて、途切れは無い。 でもね。 もっともっと。 「大人になってもさ、否定じゃなくて、『あの頃も好きだった』って胸を張れると良いな。」 “いつが一番貴方を好きだった”、じゃなくて“いつも貴方を好き”が良い。 いつになっても変わらずに、ずっと一番であり続ければ良い。 「あの頃も、ってことは?」 満足そうに頭を撫でると、再びニヤニヤしながら意地悪な質問。 格助詞とか、細かいところまで聞き逃さないのは彼らしい。 むっつりだと思われるぞイケメン。 大きく息を吸って、素直な気持ちを一緒に。 「『今も』って、言うよ。」 言いたいな。 言えるようになるまで一緒に居たい。 祈りにも似た言葉を吐くと、 「俺も。」 そう言うよ、って耳元で囁いた。 ずっと。
080208 戻 「今年はもっと好き」って言うのね、良いと思うし私もそうでありたいです。 ただ、その前の気持ちも忘れたくないなと思って書きました。 『あのときも好きだった、今も大好き』 言えたら良いですよね。 そのときはそのときでやっぱり好きだったんだから。 何と言えば良いのかな…自分で書いてて混乱してきました。 言葉にしてるヤツが言葉で言えないってダメダメですが。 伝えたい言葉が上手く言えないのはもどかしいですね。 これが答えだとは思っていないので、その内のひとつ、みたいな感じで受け取ってくださると幸いです。