怖い時に握るのは、自分の服じゃなくて俺の手に。
右に座るの左手を取ると、思いっきり変な顔をした。


「なに、やってんの?」




たまには息抜きという事でテニス部のレギュラーで遊園地に来た。
見ての通り似合わない人間の塊だが、まぁそこは赤也と丸井が気合いでカバー、更にマネージャーの〇〇で華を添え帳消しする。
入園してから散々絶叫系を乗り回した後、軽いノリで入ろうということになったのはお化け屋敷。
最初っからがビクビクしてるなぁと思っては居たが、「怖くないよ」と割にあっさり言うもんだから放っておいた訳で、そしてそのお陰でかなり面白い展開になった。
イカサマしてでも勝ち取って良かったな、隣。
2人席の乗り物は案外距離が近いし。


おばけ屋敷は乗り物が勝手に進んでいく方式らしく、赤也なんかはわーわーひたすら騒いでいるし、幸村の笑い声なんかも聞こえる程度に余裕がある。
とは言ってもそれは俺の話で、は怖がっていて何も聞こえちゃ居ないだろう。
ちらりと見れば案の定放心しかけていたので、彼女の手を、あくまでの為という名目で取ったのだった。



「怖いんだろ?」
「こ、わくない。」
「本当に?」
「だから、怖くなんかないよ。」
「無理せん方が…」
「こわくない!!」


ぎこちない受け答え。
いつもだったら「仁王が怖いんでしょ」くらい言ってくるモンだが。


「ほぉ…さよか。」
「ばっか、ほんとに怖くなんてな…!!」


どう切り込んでも怖くないと言い張るもんだから、わざと大げさに茶化すように返すと、はムキになって叫んで、直後俺の言葉に―では無く左側を見てビクリと肩を揺らした。
見ればガションと跳ね上がる生首。ナイス。

強く握られた手が思いのほか痛かったが、決定打を見せてしまった以上、もうごまかせない。



「こ、わく、ない…」
「どっかの子豚か。」


しかしそこは、素直に認めないらしい。
明らかに反応したくせに、相変わらず虚勢を張り続けるので苦笑い。

強がってもバレバレじゃよ。可愛いったら無いが。
でも、そんなに体縮こめてどうする。
それじゃ美味しくない。
力一杯抱きしめてくれれば良いのに。



つらつらとおばけも見ずに考えごと。
隣のは相変わらずビクビクしている。

そんな彼女を見て不意に閃いたのは、


「な、」
「何デスカ…」
「怖くなくなるおまじない知っとう?」


行動を起こさせる為の罠。



「知ら、ない」
「おもっきり隣に居る奴に抱きつけばええ。」
「はぁ?!ばっ」
「理に叶っとると思うぜよ。
 人肌って安心するって言うじゃろ。」


興味を持ったにくれてやったのは利害一致、一石二鳥の素晴らしい提案。
抱きしめてくれ、なんて流石に言えない。
でも素直に優しくしてやる気も起きない。
照れくさいし、ちょっとからかいたいし、どうせならこっちの方が良い。



「セイフティバーがじゃま…」


繋いだ手を離して軽く腕を開けてやると、ブツブツ呟いて渋る。
が、既に勝ったも同然だ。
こっちに少し傾いとるよ。



そっと、弱く抱きしめてきた腕は微かに震えていた。
もっと強くとか言ってやろうかと思ったが、あとはここに居るおばけ達が協力してくれるじゃろ。


後にも先にもこの日ほどお化け屋敷の存在に感謝した日は無かった。





近付く距離 高鳴る鼓動








080314 イメージはセリフから判ったかもしれませんが、某六角ランド(笑)のやつで。 てか仁王さんS!珍しい!(を 真田もこれに乗ってキェェイとか言ってれば良いと思います。 言葉の間を表現する力が欲しい…! マンガ的にどう動くかは頭に浮かぶんだけどそれを言葉にするのが難しいです。 修行と研究だ…! てか字ちっさいな!!!!