屋上でサボろうとドアをあけると先客。 ああ、だ。 俺より先に居るなんて珍しい。 彼女は一度ぼんやりこちらを見ると、再び寄りかかってた柵の方に上体を預け、ビルだらけで酷く不格好な景色を眺めた。 許可は無いが拒否も無いので、隣に行って同じように灰色の世界を眺める。 何か、あったんじゃろうな。 すぐに気付いた。 どうしたのか、何があったのか、大丈夫なのか 思っていても口に出せる程素直じゃない性分なので、彼女が口を開くまで待つことにする。 「におー…」 「ん?」 結構すぐに来たその時、俺はあくまで普通に返事をした。 たっぷり時間をかけて、彼女も何気なさを演出しているのだろう。 声色だけなら、ちょっとその荷物取ってくれない?くらいの軽さだ。 「おもいっきり、殴ってくんない?」 一瞬言いよどんだ彼女に目を向ければ、奇天烈で一瞬理解するのをやめようかと思ったくらいの言葉。 内容が内容、ちょっとでもビックリしないヤツが居たらお目にかかりたい。 表面だけは冷静さを保つけど、内心、結構焦った。 「―何じゃ、イキナリ。」 「うん、真田君殴ったあの勢いで。ずばーんと。」 とりあえず置いたワンクッション。 しかし彼女は完全に無視して自己完結、更に進んで要求へ。 聞いてない、というより聞く余裕が無いが正しい気がする。 「アレ、ウワサになっとるんか。」 「あ、そうそう、すっごい尾ヒレついて…違う!」 思い切り茶化した。 違うも何もあるか。 問いに返答をもらえなかったんだから、俺が話を変えたって良いハズだ。 ノリツッコミ、いつの間にそんな技術を身につけたのか少し気になりつつも、答えない。 イエスは言わない。 「ねぇ…お願い。」 「そんな顔、すんな。」 欲してる言葉を言わない俺。 意地悪しとると思ってるんかな。 君は今にも泣きそうな顔。 懇願してる、望んでる。 「おねがい、だから。」 ぺち、 ぶっ飛んだこと言うくらいキてるんだろう彼女の頬に、軽く平手を打つ。 乾いた音。小さな音。 「―そんなんじゃ、なくて!」 判ってる、望んだものじゃないんだろ? 判ってるから今度は抱きしめた。 息苦しくなるくらい、強く。 「痛い時に痛くしてどうする。」 これには彼女もほとほと困ったらしく、うなだれて俺の胸に頭をグリグリと押しつけた。 「痛くしてくれなきゃ泣けないじゃない。」 きっと唇でも尖らせて、もう涙目で、それを必死にこらえて絞り出してるに違いない。 そんな彼女に、痛みを与えてやったりしない。 「他の痛みで誤魔化して泣かしてやるほど、俺は優しく無かよ。」 「…優しくしてよばかぁ!」 肝心なときばっか、しゃくりあげてもう何を言ってるのか判らなくなったけど、それだけは聞き取れた。 他の傷までつけられんから、零れてきたものを抱きとめるよ。 だから その感情で泣いてくれ 俺にはとても出来そうにないけど、君なら出来るだろう? 上手く出来たらご褒美に好きなモン何でもやるから、バカなくらい真っ直ぐに泣けば良い。
080621 戻 一回友達に言ったら「私にそんな趣味は無い」と言われました。笑 仁王が真田を殴ったのは、真田の意を汲んでやるべきだと思ったからな訳で、だからと言って彼女の気持ちを汲まなかったのかと言えばそうとも限らない。 まぁそんな話が書きたかったんです。 想像以上に長くなりましたが。笑えない。