恋い焦がれるってきっとこういうことだ。
頭おかしくなりそうで、好きで好きでたまらなくて、思うだけで涙が出そうで。
必死に必死に必死になって、

でも近づくことすらままならないの。





「仁王のばか、仁王のばかぁ」

屋上は冷ややか。空は鈍い灰色。
寒さ厳しいこんな季節に来る阿呆はそうそう居ない。
だから来た。一人になりたくて。


「仁王の、ばか。」

繰り返し呟く。


判ってる、彼は悪く無いってことくらい、ちゃんと。
ごめんねぐちゃぐちゃで。
居ない本人に心の中で謝った。


何度も、何度も。
同じ言葉を繰り返す内に熱いものが頬を伝い、ヒッヒッと呼吸が浅く早く、乱れていく。
グズ、なんて可愛いモンじゃないほど鼻水で息苦しさが増すし、更に喉はつっかえ刺さるような痛みが走るんだから、泣くって疲れる。
そう思ったところで止まらない涙は、恋心と似ていた。




数分泣くだけで幾分すっきりした。
だけどあぁ、目元がヒリヒリする。
こすってもいないのに、まさか酸なのか。
…そんなハズは無いな。

冷たい風に吹かれながら、頬に流れた水分が私の塩分過多を少しは抑えてくれるだろうか、なんて阿呆なことを考えた。


まだ痛い目元をさすりながらボーっとしていると、キィと錆びたドアの開く音。
先生だったらどうしようかなと思いつつ後方を盗み見ると

「?サボりなん?」
「に、お…!?」

さっきまでバカ扱いして盛大に泣かせてもらっていた、彼がいた。

あまりに突然のこと、驚いた上に気まずさまで加わって、言葉を失う。
夢なんじゃないかと目を疑う。
いや、いっそ夢であって欲しい。


「顔真っ赤ぜよ。こっちおいで?」

そう声をかけられても何も言えない私を見かねて手招き。
散々喚いたのもあり優しげな声に躊躇っていると、仁王はスタスタと歩み寄ってきて低糖コーヒーの缶を私の頬に当てた。

「ひゃ!」
「“ひゃ!”ねぇ。お前さんにしては可愛いのう。」

ケタケタ笑う仁王はいつも通りだ。
彼のそんな様子に思わずムッとなって

「冬の屋上に来るなんて酔狂だよ。」

などと言い返した。
そしてすぐ我に返る。しまった、また可愛くないことを。

「俺より行動早いなんて酔狂を越したか?」
「うるさいよ!」

一瞬で落ち込みかけた気持ちは、負けじと応戦してくれた仁王のおかげで持ち直せた。

私の方が酔狂、

それを言われちゃどうしようもない。
事実だ。
観念して地面に足を投げ出すと、仁王も同じように隣に座った。


「珍しいのう、よりにもよってお前さんがここに居るなんて。」
「優等生じゃないからね。」
「全くじゃ。ちゃんと勉学に励みんしゃい。」
「五十歩百歩!」
「…まぁ、確かに。」

くだらない会話があたたかい。

隣に居る熱が、愛おしい。



これを壊したら、何が起こるんだろう。

喋りながら考えるのは、私にとって世界レベルの問題。
Sランクの重大なこと。




壊せるかな、私に。


「まだ出来ないなぁ、」
「…何が?」
「んーん、何でもナイ。」


どうやらまだ気力が足りません。


つぶやきに反応した仁王をはぐらかしながら、薄く笑った。






焦がれ怖がる






081129 言いたいのに言えないって苦しいですよね。 てか冬ネタだよ。出し尽くしたと思ってたよ。笑