「ごちそさま。」
「はぁ?もう食べないの。」
「うん、イラナイ。」


がしゃん、フェンスに背を預けると幾分楽だ。
ぐるぐるする、いつもより酷いな。
いや、いつも酷いや。



「つったって、お前こーんなパン食っただけじゃん!」


屋上を吹き抜けていく心地良い風に、このまま永眠したい、などと思ってもないことを考えていると、
ブン太が親指と人差し指で円を作って私に突きつけてくる。

…そんなにちっさくねぇやい。


「食欲無いの。」


簡潔に言い切ってブン太の目線に余りのパンが入った袋を揺らすと、思った通り目が同じ動きをするから笑える。

でも、珍しいな。何で躊躇してんのかな。


「ブンちゃんパス。」


そう声をかけると漸く受け取る。
いつもならごちそうさましただけでぶんどる癖に。

袋を手にしたのに仏頂面なのが気になったけど、そか、心配してくれてるのか。


「だーいじょうぶ、病気じゃないよ?」


頭を撫でてやると


「ガキ扱いしてんな!」


と少し眉間に皺を寄せて、思い切りパンにかぶりついた。
よしよし、これで大人しくなるね。
少し眠らせてください。








と、思っていたのに。


「ん゛っ…もが!」
「ただでさえ出しとるんじゃから、食え。」
「仁王!?」
「何やってるんですか先輩!」


ムリヤリ開かされた口に何かが飛び込んでくる。
それが焼きそばパンだと判ったのは、目を開いたのと濃いソース味のせい。

などと冷静に分析してる場合でも無さそうで、押し込められ続けるパンに息が詰まる。
私の選択は2つに1つ。飲み込むか、吐き出すか。

とは言え決まった2択だ、後者は有り得ない。

ゆっくり咀嚼して飲み込むと、スゥと空気が通るようになる。
あまりの気持ち悪さに目に涙が溜まるが、まさかの第2波がきた。





「におっ、ちょっ、ばか!」
「美味かった?」


ようやく解放された頃には、パンは半分になっていて、口の中はその味で満ちている。
美味い不味いなら確実に美味しかったけど…って!


「だから、何でそういうことすんの!?」
「何回も言うとるじゃろ、体から出しとるモンのが多いんじゃからその分食わんと貧血になるんは当たり前って。」


ギッと仁王を睨みつけると、原因が判っている彼は真顔で理由を述べる。
出すモンって…ざっくりしすぎだ。対応に困ってしまう。
(丸井は納得顔だから良いけど、赤也やジャッカルは困惑している。)

言い分は判る、判るけど…


「だって食べたくないもん。」


食べなくてもお腹はすかないのだ。
なら無理して食べなくて良いじゃないか。


「じゃあ6回目イキマース。はいアーン?」
「何か跡部みたいになってふぐぅっ!!」




結局解放されたのは仁王が持つパンが全部無くなってからで、ようやく空になった手は私の頭にやってきて、


「はい、お利口さんでした。」


と、ぐしゃぐしゃに撫でた。






「もー、心配なら素直に言ったらどうなんスかー?」
「ピヨ。」


移動準備中、そんな言葉を遠くで聞いて。


“不器用でも、心配してくれる君が大好きだよ。”


二人きりになったらそう伝えようと、足取り軽く階段を降りた。





君が為














090301