久々に来たの部屋。
上がり込んでみればそこには、いつもと変わらぬ彼女のぬくもりがある。



ただ一つ、変わったのは…

「写真立て?こんな物あったかい?」
「あ、それね、この間朔と買いに行ったの!」

俺を低い折りたたみ机に促しながら、はその隣に座る。
嬉しそうに言葉を紡ぐは本当に愛らしくてたまらないんだけど、気になるのは中身だ。

「ねぇ、写真のヤツは…誰?」

部屋に入ってきた時は逆光で判らなかったけど、改めて見るとそこには誰とも判らない男が一人、微笑みかけていた。

「え、ああ、芸能人だよ。テレビとかに出てる人。
 かっこいいでしょー?」

話を振った途端、花のように笑顔を咲かせる。
この人ねー歌もすっごく上手くて、なんてご丁寧に説明してくれる。

…面白く、無いんだけど。





だから、が来客(宅急便、とか言うらしい)で部屋を発った時に、写真を外してしまおう、だなんて子供じみたことを考えついた。

どうせなら、俺の―そうじゃなきゃせめてみんなで居る写真とかにしといてくれれば良いのに。

つまらない嫉妬と判っていつつもやめることなんて出来なくて、写真立ての裏側の留め金をそっとずらした。



「…あ、」

写真立ての中には不自然な厚みがあった。

はらり、はらり。
落ちてきた写真は二枚。

一枚は、飾られていた男の。

もう一枚は、すごく幸せな顔をした、俺たちの。


「…」

思わず居もしない想い人の名を口にしてしまう。

これはデジカメの使い方をに教えて、初めて撮った二人の写真だ。
譲たちの家で撮った何の記念でもない写真だったけど、は「宝物にする」って照れていた。

その写真がここに入ってるってことは、勿論―。

ああ、どうしよう、すごく幸せだ。
誰もいないと判っているのに、思わず口に手を当ててしまう。
少しの間写真を眺めて、折れないようにそれを抱き締めてから、ゆっくりと中身を入れ替えた。






「何してるの?」

「ごめんねー!」と言いながら部屋に戻ってきたは、窓辺に立っている俺を見て目をしばたかせる。

「いいや、別に?
 それよりこっちにおいで、。俺にお前の体温を頂戴?」
「…うん。」

俺は質問の答えをやんわりはぐらかして、扉の前に居るを見つめた。
あんな可愛いことされたんだ、抱き締めたくて堪らなかった。
いや、今だってそうだ。早く、に触れたい。

ゆっくり近付いて来るの甘い香りが、俺の鼻を擽る。
写真立てを後ろ手でそっと伏せ置くと、彼女を迎え入れる為に腕を広げた。



あの写真立ての異変に気付いたら、はどんな反応をするのだろうか。

可愛い顔を赤く染めて、慌てふためく姿を想像して、口元を弛ませた。












080821





あはーヒノエ乙女ヒノエ大暴走!
当初はこんな女々しく無かったんだけどな…
てか、嬉しくても写真替えちゃうの可愛いと思うんですが。ヒノエ様。
ヒロインさんは照れ屋さんになりました。ツンデレかこれ?


まだ迷宮やってないんで攻略本知識です。
設定が違ってても、あー、コイツやっちゃったよー的に見ていて下さると嬉しいです…

二人で居る時に写真のことがバレたらそれはそれでいいと思うんです、ヒノエくんは。
むしろ反応が見れなくてちょっと寂しいけど、帰ってからでも構わない的な感じです多分。ふふ。