「君、いい加減そこから動きなさいよ。」 「やだーあついー…!」 「そこだって変わらないでしょう。」 呆れた顔に呆れた声がプラスされて私に刺さる。 テニス部部長こと木手永四郎は、先ほどから木陰に座り込んでいるマネージャー…つまり私を引きずり出そうと必死だ。 どうしてだと問うと、休憩時間を3分ほど過ぎたから、らしい。 嘘つくな、今日の仕事は終わらせたじゃないか。 終わらせりゃ自由にしてて良いって権利を早乙女監督様から(死に物狂いで)勝ち取ったのだ、入部時に。 よってこの呼び出しは面倒事に違いない。 そうじゃなくても絶対動くもんかと意気込みながら、逆に道連れにしてやろうと考え、実行に移す。 「ばっか!影がある分涼しいってば! 永四郎も座ってみなよ。」 ぐいぐいと腕を引っ張って無理矢理座らせると、さーとタイミング良く風が吹く。 「ね、涼しいでしょ!」 同意を求めるも、文字通り“どこ吹く風”の永四郎。 「そうですか?」なんてツンとした態度だ。 ちくしょうツンデレかお前! つれなくされるほど力説する私って、と思いながらも誘惑し続ける。 「いや絶対違うって!私木を一本一本チェックしたんだから! 一番ここが気持ち良いんだって!だから…」 「変わらないですよ俺は。」 一生懸命な私にまたもやしれっと言い放つ。何その断ち切り加減…! 不満を隠しきれない私に、永四郎少し身を起こして、 「そして…君もね。」 と、不敵な笑みを漏らした。 意味が判らず永四郎の方を見ると、あろうことか彼は私を抱きしめ、そして耳にそっと息をふきかけた。 「ひゃ!」 ぞわりと背中が粟立つ。 慌てて耳を押さえると、満足そうに頷いて、更に顔を近付け唇を寄せた。 熱い、あつい、アツイ。 「ええええ永四郎!?」 長いこと重なってた唇がようやく離れ、呼吸を整える。 何分だったか何秒だったか判らない。 とにかく距離を取ろうともがいても、永四郎の力は緩まない。 吐息が掠めるほどの位置で、甘い囁きが鼓膜を振るわせる。 「日なたよりも熱くしてあげても良いんですよ。 ―どうしますか?」 「出ます出ます出ますっ!!」 ぐるぐると回る熱に勝てるはずがない。 したり顔の永四郎が憎らしい。 柔らかな風が再び木陰に届けられる中、おとなしく手首を掴まれて、揺らめく陽炎の向こうに一歩踏み出した。 ← 080813