真田弦一郎は、テニスにおいては鋭いがそれ以外はかなり鈍い。 殊に恋愛においては鈍感の中の鈍感だ。 私が必死にアピールしたり裏工作したりしても全くムダ。 どう考えても気付くだろって発言にも、マジで見向きもしません。 同じクラス、同じ部活、副部長とマネージャー。 ここまで条件が揃っていてもダメ。 …だったら、もうぶちかますしかないでしょう。 現代社会の時間、内閣がどうたらと先生が一生懸命説明している中、私は一筆箋とシャープペンシルを机に並べて腕を組んでいた。 長い間回りくどく頑張ってきたけど、とうとう決心したんだ。 思い立ったら怯む前にやらなくちゃ。 とは言え“好きです”はベタすぎて嫌で、何か他の言葉にしたくて。 首を捻りながら、黒板に目を向けると、“ポスト”と赤い文字。 あ、そうだ。 その言葉にヒントを得て、早速、一筆箋を一枚。 “貴方の恋人というポストを、私に下さい。” さらりさらりと書き綴って、斜め前に座る真田の机に投げ落とす。 真田はそれに気付くと、素早く振り返った。 授業中だ!と目くじらをたてて、どうやら(なんて言うまでもなく)お怒りの様子。 だけどこっちだってもう限界だ。 知らんぷりを決め込むと、ため息を一つ落として前を向いてしまった。 ダメだったかな。 ダメだろうな。 何だかんだ言って強気になんてなりきれなくて、暴れる心臓を抑え込むようにうつ伏せになろうとすると、前方からガサリという音がした。 うわ、真面目チャンのくせに、珍しい。 ―なんて思った次の瞬間、真田の顔は郵便ポストよりも真っ赤になっていた。 オロオロしながら私をちらりと見ると、慌てて目をそらす。 思わぬ反応なんですが。どうしろって言うんだよ。 でもこれ、脈なしって、訳じゃないよね? え、ただ動揺してるだけなのか、な? …ああ、もう! 頑張ったのに結局じれったいままじゃないか! 返事は速達で頂きたい所存です真田君! 090117 ←