「ねぇねぇ、この定規って300センチもあんの?」


グループワーク中、プラスチック製の透明のミリ単位物差しを手に取って、はそんなことを真顔で言い放った。

しかも、


「あっ、ちが…なんでもないっ!」


とか、自分で気付いて慌てるモンだから、俺は笑いをかみ殺すなんて出来っこなくて。


「へぇー、300センチ。」

「ブン太っ!」


わざと含みのある笑い方をしてを怒らせた。あーあー、顔真っ赤にしちゃって。


「なぁなぁ仁王ーっ!」

「ちょっ、ばか!」


もっと可愛い反応が見たくて更に煽ると、案の定必死に止めにきて、子供じみてると判っていても無性に嬉しかった。










「幸村ぁー」

「ん、どうした?」


部室に入るなり幸村にすがりつく。

興味無いフリをして自分のロッカーに向かったくせに、斜め見しながら、そっと聞き耳をたてた。

はさっきの話を事細かに幸村に伝え、


「ブン太は絶対私のことおもちゃだと思ってるよ。」


と口を尖らせた。



「まぁまぁ、俺も可愛いと思うよ。」


幸村君は“も”を強調しての髪を指先で軽く梳く。

多分俺が聞いてると見越してのことだろうな。

ワイシャツを適当にロッカーに突っ込みながら、そう感じた。


「…ゆっきーも私をおもちゃにする…」

「やだな、本当だよ。」


余計に機嫌を損ねてしまったに、幸村はクスリと笑む。

ああ、俺の前ではあんな顔しないのに。

ズリィなって、思う。



「ブン太も、お前が気になって仕方ないんだよ。」


幸村は俺をチラリと見てから、「ブン太、、早く準備して来るように。」なんて部長らしい物言いでドアノブに手をかける。

だけど去り際の笑みはまるで真逆で、早く何とかしてしまえと言われているようだった。












「なに?まだむくれてんのお前。」


しょーがない、部長命令もあったことだし。なんて理由をつけて後ろから声をかけると、ギッと睨みつけられた。


「むくれてないっ!

 あーもう…ブン太は愛が足りないよ。」


―更にはこんな呟きまで。


「は?どこが?」

「そういうところが!」


優しくないことはないと思うんだけど、と付け足せば怒鳴り返されて。


「あー…わっかんねぇかなぁ…」


眉間に寄った皺を指で擦りながら、頭をひねる。わかんねぇんだろうな、きっと。


「お前のこと、すっげー可愛いと思ってんのに。」



あー、確かに俺、屈折してるのかもしんない。女の子の思う優しさって持ってねぇ。

でも、お前への愛は物差し300センチだって足りないぜ。



ベタとか言わせないし、笑わせない。




「計り知れない位お前が好き、でどう?」





真っ赤になったに問いかけると、口をパクパクさせて、余計に俺の髪のように色づいた。









091024