真夜中にジャカジャカと携帯がわめきだした。

洋楽なんて興味もないのに勝手に送りつけられた上に、どこから拾ってきたのか規格外の音量の着メロ。

そんな文句があるなら消せば良いのに、彼専用の着信音にしてる私も大概である。


「もしもし…」
『やー、出るのおっそいさー』
「仕方ないじゃん寝てたんだもん」


凜くん今何時だと思ってるの。
一端受話器を耳から離すと、AM2:34と表示された時計がちょうど1分進んだ。


ひどい、ひどすぎる。
私の寝付き寝起きの悪さは、以前話したはずなのに。

それとも沖縄はまだ昼なんかそうなんか、と、普段は焦がれている美ら海にまで悪態をついてしまう。



『でーじデケー着メロやし。』
「は?」
『近所迷惑さー』
「だから、何、どゆこと?」
『一回電話切って、わんにかけてみ。』


不機嫌全開で出たはずなのに、凜はケタケタと笑いだし、今度は一方的に電話を切られた。

すっかり冴えた目と、まだぼんやりする思考の中で、ああそうだ、かけ直さなきゃなんて思って、3分前の着信履歴から通話ボタンを押す。




ピッピッピッピッ


彼の意図に気付かぬまま従う私ってどうなんだろう…

コール前の機械音を聞きながらそんなことを考えていると、数秒のタイムラグで、外で響いた爆音。


「は!?」


慌てて起き上がる。
痛い、壁に頭ぶつけた。
おかげで眠気も吹っ飛んだから良しとしよう。


聞き間違えるはずがない、あんなマイナーな曲を近所の人が使ってるなんて偶然、ないと信じたい。


乱雑に窓を開けると、外灯に照らされた金髪が見えた。


「よ。」
「よ、じゃないよ…!」
「わんの着メロも、これ。」


凜は、強気な目をそらすことなく、携帯を掲げる。


夜の帳に響いた言葉は、何よりも甘いものだった。




091108