仁王雅治の誕生日は呪われてるんじゃないかと思う。
去年、今年と同じように電車が激しく遅れれば、そう思いたくもなるだろう。

おかげで去年は一番におめでとうが言えなかった。
そして、今年もそうなるに違いない。

彼女として、それはちょっとへこむなぁ。

残念極まりない現状に重苦しくため息をつきながら、満員電車に乗り込んだ。





ぎゅうぎゅうと押しつぶされながら揺れること数十分。
アナウンスが最寄り駅を告げる。
遅延届けをもらう人でごった返す改札前で、何とかその流れに乗って一枚受け取り改札を抜ければ、ようやく新しい空気が肺に送られてくる。

どうせ遅刻だし一息つこうと壁によりかかると、強い力に身体を持って行かれた。

「っ!」
「おはよ。」

その人物は、本日主役である彼に他ならない訳で、

「ま、」
「悪いけど走るぞ。」

今度は指を絡め取られ、学校に向かう出口とは逆方向に走り始めた。












辿り着いたのは小さな公園。
早朝だからだろうか、まだ人気もなく余計に閑散として見える。

「も、ありえな…!」
「はは、すまんすまん。」

息を整えてからベンチに沈む。
悪びれていない謝罪にあきれつつも、ひっそり喜んでいる自分が居るのだからどうしようもない。

「てか、朝練は?」
「ある訳ないじゃろ。」
「…そっか。」

話しながら、先ほど温かい飲み物を買った自分を憎らしく思った。
こんなの今飲めないじゃないか。

離れた指先を埋めるべく手で転がしてみるも、虚しいだけで。
まだ立っている彼を見上げると、わしわしと頭を撫でられた。


「なぁ、今年は一番じゃよ?」
「…え。」
「何のために隠れながら寝ぼすけさんを待っとったと思う?」
「…まじで?」
「とーぜん。」

思わぬ言葉に、一瞬頭がフリーズした。
追ってじわじわと来る照れくささ。
去年、落ち込んでたのを見透かされてたみたい。
厄日でも何でもないじゃん。

私が喜ばされてどうすんの、ばか。







「早く言ってくれん?」
「せ、急かすのナシ!!何か恥ずかしくなってきた…」
「ん、かわい。」
「煽るなー!!」

せっかく雅治がくれた機会なのに、ドキドキと高鳴りだした胸はなかなか収まってくれそうにない。
焦れたらしい雅治の視線に息が詰まる。



「ま、さ君?」
「ん。」
「あの、誕生日…」

おめでとう。

同時にベンチから離れて抱きついた。
赤くなった顔を胸に押付けて隠してしまいたくて。


「大胆。」

耳にかかる息はわざとだろうか。
少し低めの声が私の脳を揺さぶる。
カッと身体が熱くなって、これじゃあ逆効果だと気付いたけどもう遅い。

「でもこれで、悲願叶ったり。って感じか。」
「…ばか。」
「勘違いせんの、俺のだから。」
「え?」

顔を胸から引き剥がされ、額に可愛いリップ音が聞こえる。

「だから、俺が一番に聞きたかったんじゃ。」

そちらに気を取られて危うく見落としそうだった。
雅治は、こっちの心臓が止まっちゃうんじゃないかと思うくらい優しく笑ってて。
何でだろう、泣きそうになった。



「おめでとう、」

繰り返すと、小さく頷きながら「ありがとな」って返ってくる。
近付いてくる顔に黙って目を閉じて、そっと唇を重ねた。



君の一番


(来年も)
(一番でありたい)
(あってほしい)









081204













仁王への愛は限界を超える!笑
誕生日ネタが尽きたと喚いていた私に舞い降りたのは、2年連続電車遅延。
よりにもよって12月4日に何故。

そうか、

書 け っ て こ と か … !

て訳でザクザク書きました。勢いで。
本当は赤也やらキヨやらもネタはあるんですが、書き終わらなかったとかそういうオチ。

とにかくおめでとう。あいしてる。