僕のあお、君のはる
――――〜♪
携帯電話が鳴ったのは、よく覚えていないけど夜の9時ちょっと前。
なんですか、こんな時間に。
読んでいた『銃とチョコレート』から顔をあげ、静かな部屋にけたたましい着メロを溢れさせるそれに目をやった。
電話帳登録されていないその番号は、いつまで経っても電話に出ない私をしつこく待っている。
しかたないから、一回深呼吸をして出てやった。
・・・怖かったけど、いつまでもたらこの歌が流れている方がちょっといらついたからだ。
♪〜・・ピッ
「・・・はい。」
『よぉ、起きてた?つうか起こした?』
「・・・山本?」
その電話の向こうで笑うのは同級生の山本武。
彼はおぅ、と返事をすると少し間をおいてから言った。
『ちょっと出てこねぇ?話があんだけど』
「時計を見てモノを言え。こんな時間にオンナノコを連れ出すヤツがあるか?」
我ながらオンナノコらしくないなと思ったが、さらりとまぁかわされる。
『そう言わずにさ。今おまえんちの前に居んだ、迎えに来てやったからちょっと出てこいよ』
私はあきらめた。カーテンをめくると、窓の下にはひらひらと手を振って立っているヤツの顔があったからだ。
「お母さん、ちょっと友達来てるから出てくるね」
私が勝手に出て行かないのと、いつも11時には帰ってくるのを知っている母は心配そうな顔を見せこそすれ、そんなに言及してこなかった。
「よ。悪ぃな。・・あのs」
「待った、ウェイト。先にいいかな」
「なんだ?」
山本に連れてこられたのは家から3分の公園。
大通りに面しているために、治安の心配もあまりない。
ベンチに座ろうとした彼をよそに、私はブランコへふらふらと足を向けた。
「携帯。なんで番号知ってたの?」
「あぁ」
暗くてよく見えないブランコの足元に注意を払っていると、頭上から声がした。
「アイツに聞いた」
・・あぁ、君はすべり台がいいのね。
アイツとはたぶん、彼女のことだろう。
私の友達で、マイカタツムリを持っていて、山本が好きなあの子。
カタツムリとはまぁ、あれだ、いわゆるホルンて楽器だ。
「うちの場所は?」
「昨日偶然店の配達リストで見っけた」
「普段はこの時間、まだ塾で帰ってきてないよ、私」
「今日は塾ないって言ってるの、教室で聞いたから」
よっ、と勢いをつけて滑ってみたものの、あまりうまくいかなかったみたいでちぇっと声をもらした。
「計画犯?」
「まぁな」
ぱたぱたとズボンをはたいた山本は、もう一度すべり台の上を目指して上がっていく。
ちょっと、逆走しないでちゃんと後ろの階段使いなさいよ。
「で、何の用だって?」
本題を切り出す。が。
たぶん、登るのに必死なんだと思うな、こいつ。ちょっとキモイかも。
「ん?あぁ、あのさっ」
「待っててあげるから登っちゃえよ」
あと一歩。頑張れ若ゾー。
「っよっしゃ。あのさ、おまえアイツと仲いいじゃん?」
「うん」
「ふだん、何話してんの?」
「・・・は?」
言っていることが簡単すぎて、意味が分からなかった。
ブランコをとめて山本を見上げる。すべり台の頂上で仁王立ちをする少年がこちらを向く。
「いつも、朝とか昼休みとか。クラス違うのに遊びに来てんじゃん?」
「あぁ・・・」
要するに、彼は今、私と彼女の日常会話をココで暴露しろといっているのであろう。
腐女子という結束によって結ばれた者しか参加することの許されない、あの会話を。
「なんでもないことだよ、別に」
そんなの死んだって御免被る。行使できる限りに黙秘権の続行だ。
特にこいつの前では。
だが、そんな答えは期待していないかとでも言うように、山本は続けた。
「なんか気になるんだよ。しかもここのところやけに機嫌いいだろ?」
「私が?」
「じゃなくてさ」
あぁ。そういうことですか、山本君。
ちらりと横目で見上げると、バツの悪そうな顔をふいと背けた。
今度は体育座りをしているせいか、ちょっとだけちっちゃくみえた。
「・・・女子の会話なんてついていけるとは思ってねぇけどよぉ、その・・気になるんだって」
「・・・」
「別に俺だって仲悪いわけじゃないんだぜ?」
「それは知ってるよ」
だって、いろんな話を聞くから。
今日の山本はなんか眠そうだったとか、
また体育で大活躍してるの窓から見えたとか、
隣のクラスの女の子に告白されたんだってとか、
どんな山本でも好きなんだ、とか。
そんな話、あんたの前じゃ絶対に言えないよ。
「だから、なんでもいいんだ。話すとき、あいつが楽しい話題、してやりてぇじゃん?」
照れくさいのかなんなのかよく分からないけど、山本の声はだんだん消えるように小さくなっていった。
「なんか喜ぶ顔がみてぇっていうか。おまえ、ずるいよな」
「何で私がずるいの?」
「アイツはおまえには何も考えないで笑ってみせるだろ?それが羨ましいんだよ、俺は」
「ふうん」
交差点の、横断歩道の信号が点滅して、赤になった。
そっと足を離して、ブランコをこぎ始める。
風と、頭上のため息が耳元をかすった。
キーコ、キーコ、と金具のきしむ音。
私の答えを待った息を詰める様な空気が公園を満たした。
なんとなく、そんな空気が心地よかった。
「山本は、」
「え?」
「山本はそのままでいいと思うよ」
「・・・なにが?」
キーコ、キーコ
加速して高さを増すブランコが楽しくて私は思わず笑ってしまった。
だって、視界に入った山本の顔が、なんとも言えないひょっとこ顔だったから。
「その顔やめなよ、台無し」
「なぁ、言ってる意味わかんねぇんだけど、さっきの」
「そのままだよ、山本はそれでいいの」
あの子はそれを望んでいるから。
私の大好きなあの子は、あの子の大好きなそのままなあんたに、恋をしているから。
「つまり好きなんでしょ?」
意表をつれた顔でこっちをみる。
ブランコであっち行ったりこっち行ったりな私を、口をあけたまま首を左右に振って追いかけてくるそのしぐさがなんとも面白かった。
「ま、いまさら聞くなってか」
独り言のように言ったそれは、ヤツの耳に届いていなかった、と思う。
「好きだから、なんじゃねぇの?」
今度は山本が、大きい声ではっきりと言った。というか、宣言した。
「ほ?」
「気になんのも、笑わせたいのも、アイツが寄ってくおまえがすっげぇ羨ましいのも」
「わかってんじゃん」
「だから俺は知りたい」
「だから、私は言ってる」
勢いよくブランコをひとこぎして、ジャンプで着地して見せた。
こう見えても、小さい頃はやんちゃで公園を制覇しまくった過去を持つ。これ位は楽勝。
山本のいるすべり台の、その下に立って私は彼を見た。
「山本はそのままでいればいいよ」
にぃっと笑って見上げてみれば、ようやく何かが伝わったみたいだ。
ふっと笑ってから、山本はあーぁと大きく伸びをした。
「そっか」
「うん」
それから立ち上がって、ひょいと身軽に台の上から飛び降りた。
君、そこまで結構命がけで登っていらっしゃいませんでしたっけ?いいの?
「帰るか」
てくてく先を歩いていくその後を、私は笑いながらついていく。
「山本」
そこそこタッパのある、ちょっとかっこいい少年が振り返った。
――この幸せモンが。
しかし、動き出した車の音にかき消された。
無意識にそういうように言っていたのかもしれない。
「わり、聞こえなかった、何?」
ほんとに、なんてあんたは幸せモンなんでしょうね。
泣かせたら家に火ィ放つぞコラ。
「なんでもない。遅くなったんだから家まで送れって言ったの」
ははっ、りょーかい。
そう言って、すっきりしたような満面の笑みで私の肩をたたいた。
その3秒後に植木につっこむようなこの男が、明日からどうやって動くのかがなんだかとっても楽しみだ。
裏切らないでおくれよ、山本君。
部屋に帰って私は、もう寝てしまったかなと思いながら、彼女にメールを入れた。
『ま、がんばれ』
期待していたようにその返事は来なくて、私はまた楽しい気分のまま布団にもぐった。
=End.=
チーズ蒸しパンに…
なんか、、山本おとなしい人になっちゃった。
初夢(夢かコレ)なんです・・ちょっと場違いでしたねすいません。すいません。orz
とりあえず、すっごい遅くなったけどサイト開設おめでとうってことです〜
よかったらもってか え っ て ?(死亡確認
らんぼファンの壱莉さんでした。
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ありがとうございますいませんでしたあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
説明しますとですね…私改装のときに間違えてこのお話を消してしまいまして、泣きついたわけです。
開設記念にもらったのです…!
改装前の私を止めに行きたい… orz
こんなすばらしい話を消してしまった私にもう一度与えてくれてありがとうございました。
もう無くしません。
私もこんな可愛い山本書きたいなぁとおもいつつ。
皆様もマイナスイオンに癒されてください。
狭霧朋真
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