手をつなごう





夜から降り出した雪は、翌日にその静けさと白い世界だけを残していた。



この時期の塾生は忙しい。

塾を午前中で終わらせた私は、午後の授業が残るビルを振り返ることなく後にした。

ほぼ貸し切り状態の電車に揺られながら、車窓に写る風景を見る。

一面真っ白な町に舗装された黒い道路のコントラストが、静けさに輪郭をつけていた。


改札を抜けた定期を機械のように取り出し、ふと顔をあげれば、出口の柱に寄り掛かる人が見える。

赤くなった頬が長時間外に居た事を示していた。

いつもならデカいだけの体付きも、寒さで縮こまっていてちょっと可愛いと思ってしまう。

「山本」

そう名前を呼べばきっと

「よぅ」

こっちを向いて笑ってくれる。

「何してんの?」

私の問いに対して山本は下を向く。

つられて下を向けば、出前で使うような柄の付いた深い盆。

山本はそれをひょいと持つと

「送ってく」

「遠いよ?」

「知ってる。回収のついで」

ニッと笑った。




駅を挟むと町は変貌する。

この町も例外でなく、10分も歩けば農耕地区に突入する。

道は雪かきがされており、人が2人平行に歩いても、後ろには何も残らない。

両脇に積まれた雪は、灰色の空から光を受けて輝いている。

それは田畑に積もる雪や、ほぅと吐く息とは違う白さだった。




「あ」

不意に山本が声をあげる。

「なに?」

「もう初詣行った?」

「ううん、まだ」

「じゃあ寄ってこうぜ」

そう言って指差した先には木々に囲まれた鳥居。

ちらほら人が吸い込まれていた。




目隠しの様に生い茂る常緑樹のお陰か、長い石段には雪の影が見当たらない。

「ここ来るの久し振りかも」

「俺はじめてかも」

「ホントに?」

「こっち側あんま来ないから」

弾む息は久し振りの運動だからだと思っておこう。

「おっ、見えた」

私にはまだ見えない景色に山本は何かしらの感動を覚えたらしく、石段をパッと駆け上がった。

ゆっくりと2段上がると、見える景色は雪に包まれていた。

「結構人いるのな」

「うん…凄い」

別に絶景ではなかった。

人がごった返している訳でもなかった。

ただ、白くて。

ここにいる人が、みんな雪のように感じた。

田畑に積もる、あの柔らかな白のよう。

世界が、同系色だった。


本堂まではすぐだけれど、はしゃぎ回るチビッコを数回避けた。

二礼二拍手一礼。

知っていても頭の二礼を忘れてしまった。

ごめんなさい、と思いながら願うのは、同時に鈴を鳴らした人の事。

ここが何の神様なのかなんて知らないけど。



最後の一礼を済まして後ろを振り返る。

チビッコ達から発射され、リゾーム状に飛び交う雪玉。

そしてはしゃぐ声。

「元気だねー」

「俺らもやるか?」

山本が投げる仕草をする。

「山本がやると遊びにならないよ」

「だな」

ホントは少しやりたかった。




「帰るか」

「うん」

鳥居をくぐり、石段を下る。

「は何お願いしたんだ?」

「言ったら叶わないじゃん」

いや、言ったら叶うのかも知れない。

だけど今の私にそんな度胸はない。

折角神頼みしたんだから、そのままにしておこう。

「山本は何お願いしたの?」

「俺? 俺は…」

あ、言うんだ。




「と二度と顔を合わせませんように」



石段が、急に降りられなくなった。

吹き下ろす風が冷たい。

雑音の無い世界に、妙なざわつき。

「だーかーらー、」

そのまま石段を降りていた山本は、私を見上げると

「言ったら叶わないんだろ?」

口元だけ笑っていた。

「…何ソレ」

吹雪のち快晴。

要するに同じ事を願っていた。

「早く帰ろうぜ」

差し出された手を取るのに必要な事は、石段を駆け降りるだけだった。










==========
人生初の山本
の、リミックス版。
こいつのプロトタイプは、ぶっ壊れた初代愛機の中にあります。
絶対プロトタイプの方が良く出来てた…。
リミックス=良いものとは限らないのです。

と言う訳で明けましておめでとうございます(と打っている今はまだ12月
1月中はフリーに配布します。貰って行ってやって下さい。
年賀状の代わりです。

ではでは、よき1年になりますよう…。
2008年1月 9mi管理人 劉



 



@@@@@@@@@@@@@@@@@
という訳でありがたくいただいて参りました。
ごちそうさまです。武くん。
こういう感じ大好きです。
私の武君飢えに気づいてくれてありが(殴
…すみません調子に乗りました。

早く載せたかったんですが諸事情でこんな遅くなってしまいしょんぼりしております。

ごちそうさまでした!!

狭霧朋真