「比嘉のジャージは後ろ姿がかっこいいんだもん!」


そう言って誤魔化した私はとても狡い。
だってレギュラーで普段から上着を羽織ってるのは凜だけだから。


ねぇ、君を見ていられる言い訳なら、いくらだって探すよ。





「あー、でーじかっこいい。でらカッコヨス。ばり良かとねー。」

無差別に方言を放り込んで褒め称えるのは、あくまでもジャージ。

「そこまで良いかぁ?」

そのため若干変人扱いを受けるけど(特に裕次郎に)、気にしないで笑って答えられる。

「うん、かっこいい。」
「ジャージなんか見て、何の生産性があるのかわんには判らん。」
「裕次郎には判んなくて良いですー」
「うわ、ムカつくー!!」

だって裕次郎レベルなんて可愛いもんだ。
何故なら更に質が悪い人間が、そんな彼の隣に居るから。

「そんなに気になるならみんなに着て貰いましょうか、君。」
「キティ…」

栄四郎は、私の思惑なんてお見通しだ。
私が凜に恋してることも、ジャージが好きというのが言い訳だってことも。

「いらない。永四郎が着てもときめかない。」
「おやおや、それではまるで着ている人間を重視しているように聞こえますが?」
「っ、早く部活行け!」

何のこと無しに言った言葉に、至極愉快そうに笑い図星を突かれる。
余裕綽々な永四郎が腹立たしくて、でも言い返せなくて、頬に灯る熱を意識しながら必死に背中を押した。









栄四郎にとって私がオモチャなのは判ってる。
些細なことに噛みつく私が楽しいんだろう。

「そ  こ  が  !ムカつくんじゃぼけぇぇぇぇ!!」

テニス部の練習が一番良く見える教室で、窓の外に向かってしこたま叫ぶ。
今日は知念が居なかったから、フォローしてくれる人材も居なかったし。
裕次郎なんかに凜が好きだと気付かれたら、散々騒ぎ倒されて、次の日には学年中知らない人はほとんど居ないだろう。
ただでさえ、アイツも凜も目立つんだから。

自分の考えにゾッとしながら、意識を振り払うようにコートの方に目を向けると、…居た。凜だ。

今日は試合か。楽しんでるなぁ凜。

ひらひらとジャージが風に舞って、綺麗。

黄金色の髪が、目に焼き付きそう。

「もう、焼き付いてる、か。」

ふと呟いた独り言に自分自身がむずがゆくなって、思わず机に顔を突っ伏した。








いつまでそこに居ただろう。
野球部辺りの野太い「ありがとうございました」が聞こえた頃だったろうか。
ちょうど宿題を終えたので、凜たちに見つからない内に帰り支度を始める。
試合の合間にと思ってやっていたが、おそらくもう無いのだろう。
クールダウンしているテニス部員の姿がちらほらと見え始めた。

一緒に帰ろうと言えない辺りがディフェンシブだけど、練習見てたなんて恥ずかしくてとても言えないからそれで良い。
今日は3試合も見れた。十分だ。
抑えきれない笑みを口元に浮かべながら階段を下っていく。
イヤホンから流れるお気に入りの歌なんかを、自然と口ずさみながら。




それに集中しすぎていたのか、私がよほど気配というものに疎いのか。

「ストーップ!!」

放課後にしては大きすぎる足音だったはずだから後者は否定するとしても、不意打ちで肩を引かれイヤホンを片耳もぎ取られた上、叫ばれた事にまず驚く。
次いでその人物に。

「り…凜…?」

肩に置かれた手が、耳にかかる息が私の体温を上昇させていく。
目を白黒させ彼であるか聞いてしまうのは、あまりに現実味が無かったからだ。

「何で先に帰る!」
「は?」

だけど彼が返してくれたのは答えではない。
寧ろこちらが問い詰められているような気がする。というかそうだろう。


早くも呼吸が整い始めた凜は、私から少し離れて汗を拭うと、憮然とした表情でこちらを見た。

「この時間まで居るなら声かけろよ。」
「…いや、だって、まだ終わって無いでしょ?」
「だーっ、あと15分くらい待てるだろ?」

まただ。
私の質問お構いなしに喋り、果ては狼狽えてしまったせいでまだ返事もしてないのに、

「正面玄関から動くな!」

そう命令口調でびっと私を指差しながら元居た場所へと駆けて行った。







君の背中はいつだって、何物にも縛られずに自由でかっこいい。

だけどやっぱり

「全部かっこいいなんてずるい…」

背中も指先も唇も目も。
かっこいいトコ、かっこわるいトコ、ひっくるめてかっこいいのが凜。
本当は、判っていたから逃げていた。
だって目の当たりにしてしまったら、もう。



その場にへたり込んで見上げた君の後ろ姿は、薄闇に溶けて見えなくなった。






君の背中












080923








だから最近長いよ朋真さん!
しかもグダグダだよ!!
比嘉っこが出してたら書きたいとこ半分も書けなかったよ!
続け次回!(!?)