「知念知念ちねんちねーん!!」


今日も私の口は執拗なほどに知念の名を紡ぐ。


「今日はどうしたさー?」
「なにそのリアクション!!慣れたぜバカやろうみたいな!チネはいっつもピュアに驚いてくれてたじゃん!」
「そんな事は無い。」
「カムバックちねーん!!」
「で、今日はぬーがや?」


いつもとは違うんだからと思っても、彼からすれば大差無いのだろう。判っている。

やや呆れ顔の知念を見て、本来の目的をようやく思い返し、私と知念を阻む机にずいっと身を乗り出す。


「どうすれば、良いと思う?」



今朝、凜の口から飛び出した一言は、私を知念の元へ走らせるには十分すぎるものだったのだ。



「凜、今、何て?」
「だーかーら、やーはジャージフェチって裕次郎が言ってたさ。じゅんに?」


再度口にされた言葉に硬直する。
聞き間違いであることを祈った私がバカだった。

凜はいつも通りすぎる故に感情が読めない。

私は油切れしたロボットのようにギギギとゆっくり肯くと、一目散に逃げてきたのだった。





「しかもすっごい真顔で聞かれたの!どうしよう!」
「わんは今まで凜が知らんかったことに驚きさ。」
「そりゃ私に興味がないからでしょ!」


知念の冷静な分析を聞いて、感情のままに机を叩く。

…あ、自分で言っといて難だけど、


「落ち込むなさー。」


ぐさり、鋭利な言葉のナイフが、私の胸に突き刺さった気がした。


「わかってるよ、そんなん…。」


興味がない、あるはずがない。
凜があたしのこと覚えたのだって会ってから何ヶ月後だったかな…


「逆に言えば、今は興味があるって話やっさー?」
「…どうだろ。そんな変な癖あったら、イヤでも気になると思うよ。」
「最近ネガティブすぎじゃないか?」
「イロイロ参ってるの。」


一人鬱になりかける私を、知念が慰めてくれる。
だけどそれでも気が晴れなくて、重くて深い息をついた。



そもそも、ジャージが好きってのは建て前で、みんなに凜一人見てても怪しまれない為で、凜にバレない訳が無いと思っていた。

けど、実際にそう言われると激しく落ち込む訳です。


ああ悪循環。

授業もやたら指されるし、今日は関わらないでおこう、そんな日に限ってテニス部が休み。
全くもって最悪だ。涙が出そう。



ホームルーム終了と同時に逃げるように駆け出して、ジャージのまま海に飛び込んだ。







煩悶と逃走






081129