体育の授業後に、着替えなくて良かった。 ひたひたと波打ち際を歩いて鞄までたどり着く。 前かがみになると滴り落ちる海水が砂浜に濃いシミを作った。 でも。 あーあー、下着どうすんだあたし。 やっぱり駄目じゃん。後先考えずに行動したせいじゃないか。 ばかみたい。 海水よりからい水が目から零れたその時、黒い泥砂は薄暗い闇色に覆われた。 私の目には、かの人の足が映る。 「奇遇だな、。」 「凜…?!」 思いがけない人物は、夕日に染められて目の前に立っていた。 乾いたアスファルトの上に座り込む。 浜辺から少し離れた防波堤の上で、私と凜は横並びになった。 何も言わずに連れられてきた。今も、まだ一言も会話が無い。 嫌な沈黙を破ったのはそれに耐えきれなくなった私で、 「凜も海に来てたんだね、」 と、当たり障りの無い内容を、必要以上に明るく言った。 「やー、もうわんの背中見んな。」 「えっ」 だけど、凜から返ってきたのは思いもよらなかった言葉で。二の句が継げなくなってしまう。 凜はお構いなしに、私の方に身体を向けて話し始めた。 「は、いつもわんの後ろしか歩かん。 隣に並んで歩くのはいつも知念とか裕次郎で、 …気に入らん。」 いつになく言葉を選んだしゃべり方に、何故か凜の必死さを感じた。 「わんは、やーの隣が良い。後ろじゃ、しんけんついてきてるか判らないさー。」 掠れた声が、瞳が拗ねているようで寂しげで、引き込まれる。 それに、といったんここで切ってから凜は続けた。 「やーはわんを見てられるのに、わんがやー見れないのは不公平だろ。 だから背中見んの禁止。」 「ばっ…私なんか見ても仕方ないでしょ!」 ようやく終わった凜の訴えは、どうやら私のジャージフェチからきているようだと理解する。 だけどその言葉は、素直に耳に入ってこない。 だって、そんなの。 「無かったら見たりしないさー わんはが好きだ。まっとうな理由さ。」 「なっ…!」 誘導的にたどり着いた有り得ない答えと凜の言葉がぴたり重なる。 「言っとくけど、嘘じゃないからな。」 「だっ、無いでしょ嘘だ。」 「たった今嘘じゃないって言った。 だいたい、わんが好きでも無い奴と二人きりで帰るとかありえないだろ? なのに脈ないしいっつも知念だし。」 速攻否定する私に頑として譲らない凜。 凜の言うことは本人でなくても納得することなんだけど、肯けない。 「でも、」 「ジャージフェチとか、嘘だろ?―そろそろ観念しちまえよ。」 凜は言い淀む私にあっさりと欲しい言葉を与える。 私の考えなんて、とっくに見抜かれた後で。 もう抵抗は意味をなさないと思った。 「私も好きだよ…凜が好きだよ…!」 勝手に頬を伝って行くのはあたたかい涙。 「凜を見てる為の訳、もう探さなくて良いんだよね?」 「端から探さなくたって、わんが好きで万事解決してたさー。 ったく、わんがどんだけ苦労したと思ってんだか…」 しゃくりあげながら喋るなんていつ以来だろう。 ため息と共に引き寄せられた身体は、確かな熱を私に与えた。 見つめる理由と言い訳と。 言い訳はもう必要ない。 ← 081231 当初の予定のちゅーが入ってないんですが!!笑 …まぁいいや。 凜はやたら長くなりましたねー困った。 おかげで1本目なのに別窓だよ、君だけ。 何か甘いんだか苦いんだかよく判んないはなしでアレですけど、とりあえず方言ぐちゃぐちゃですすみません… orz