やばい、こいつぁーやばい。


何がって、目が回る吐き気がする筋肉痛。
いや、筋肉痛は関係ないな。


まぁつまるところ体調が悪い訳で。

夕飯の買い出しについてきたとこだったんだけど、しゃがんだ瞬間に立てなくなってしまった。



やばい、私今一人だよ。
母と別れたのはどうやら失敗だったらしい。





「何ばしよっとね?」


文具売場から動けなくなった私は、ただ自分の世界が定まるのを待つ、はずだった。

んだけど、おっとビックリ玉手箱(ああなんて古い表現。頭が死んでいる)、私の知り合いが居たようだ。


「ち、とせ?」

ほんの少し首を動かすと下駄を履いた足が見えた。

それ以上に上を向く行為は、相手が彼だと分かれば無意味で、ただの自虐だ。
顔までたどり着くのは、天井を見るも同じなのだから。
そして今の私がそんな事したら、吐く。確実に吐く。


「そげんにファイル欲しかと?」
「いや、何て言うか…マジで倒れる5秒前?」


彼はいつもの如く、ひどくのんびりとした口調で話しかけてきたから、思わず気を弛めそうになった。
いやいやいやダメダメダメ、そんなことしたら吐く。確実に……ってこれさっきも考えた気がする。


「…体調、悪か?」
「立てない程度に。」


何で体調悪い時って自分のことなのに淡々としてしまうんだろう。
不思議だ。頭がフワフワしてまともに考えられないはずなのに。



「ちょっと揺れるばい。」
「…はい?」


だけど私がぼんやりする間もなく、千歳は言葉を投げかけてきて。
反射的に返事をすると、同じタイミングで膝裏に手が差し込まれた。


「え、ちょ、ち…!?」
「暴れたらいかんよ。」


背を抱え込むようにして立ち上がった千歳が走り出す。

カーンカーンと、響く下駄のおと。


恥ずかしい、売場がざわついてるのがありありと分かる。
ただでさえ目立つ彼なんだ、突然女の子抱きかかえてたらそりゃ驚くよね。

だけど、「ベンチ…、」と呟く千歳の声に、険しい顔に、離してなんて言えなかった。

と言うよりも、


優しすぎてときめいた



「ちとせぇー…」
「わわっ、なして泣いとうと?」

あんまりにもあたたかくて、思わず泣いた。






090907
















こんな千歳と結婚したい。(本気で