僕らは随分大人になったつもりで、実際なりきれてなくたって年だけはしっかり重ねてきた。
中学生の時に出会った君とは、違う大学に通って、違う環境で過ごしている。

連絡も取らなくなって、メールアドレスも変わってるかもしれなくて、だけど君のアドレスは消せなくて。

だからと言って、怖くて何処へも踏み出せない。

臆病な僕を君は笑うかな?


本当は全部投げ出して良いから君に会いたいんだ。







「あ、不二!」
「…英二。」

駅の改札。
久々に見る顔だった。
僕は外部を受けて、他のみんな―テニス部だけじゃなくて、一括りにした青学のみんな―に会うのもそんなに頻繁じゃないから。
懐かしさで、お互いニヤっと笑う。

「元気?」
「まぁね、そっちは。」
「俺が元気じゃなかったら世界が滅亡してるよ」

他愛もない会話に見え隠れする幼い僕ら。
やっぱり行き着く先はテニス部の話題だった。


「タカさんの腕前、また上がってたよ。」
「うわー。いーなー!!あ、聞いてよこの間桃の奴があの子とデートしてて!」
「ふーん、桃頑張るね。手塚も相変わらずらしいよ。」
「うへぇ…みんなしてずっるいんだ。」
「英二だってモテるだろ?」
「オトモダチ止まりだよ。
 あっ、なぁ不二、最近と連絡取った?」

恋愛話で盛り上がれるなんて、僕らもまだ若いなぁなんて少し老け込んだことを考えてたから、不意打ちにツキンと胸が痛んだ。


「最近も何も、高校卒業してから1度も取ってないよ。」

動揺を隠すように、少しキツく目を閉じて答える。

「うぇ、うっそぉ!?何やってんのさ!」
「何か…タイミングが、ね。
 もうアドレスも変わっちゃってるでしょ?」

自嘲に近く微笑む。
僕はこんな風にしか彼女を知ることが出来ないんだ。
ずるいよね。



「あー…やっぱそんなこったろうと思った。」

英二はため息をつくと、びしっと指を僕に向けた。

「早く連絡してあげなよ。不二と同じように、も迷惑メール我慢して変えて無いんだから。」

「え…」

その言葉が信じられなくて、今度は目を見張る。

「いい加減、じれったいってか…うーん。
 そろそろ誰かに取られちゃうよ?これ以上女の子待たせるのは、不二の流儀じゃ無いんじゃない?」


待たせてる?僕が?女の子を?

ねぇ英二、どういう事?


それらが言葉になる前に、間が悪く駅のアナウンスが割り込んだ。



『間もなく、1番線に急行電車が参ります。間もなく…』



「うわっやべー、バイト間に合わなくなる!
 いいかぁ、絶対連絡するんだぞ!?

 …あ、ちょーどいいじゃん!それ使っときなよ!」




嵐のようにまくし立てる英二が去り際に指したのは僕の右手。
在るのは、君の誕生日付けの定期券。

こんなに嬉しい事を聞いても、やっぱり今すぐに会いに行けないような弱虫な僕だけど。




期限が切れるその日に、君に会いに行こうか。







070728