恋愛感情が無いにしたって、あれは少しショックだった。

裕太にすがりついて泣く、を見るのは。



僕はが大好きで、きっとも僕が好きで。
それに気付いたのはいつだったっけ。1年くらい前だった気がする。
想いを伝えれば、きっとすぐに恋人になったんだと思う。
だけど素直じゃない彼女と言い合いするのも嫌いじゃなかったから、まだこの関係のままでも良いって思ってた。







「ねぇ裕太。どうしては泣いてたの?」

無理矢理笑って手を振ったが居なくなったのを確認してから裕太の方へ歩み寄る。
声をかけるとあからさまにイヤそうな顔をして溜め息を吐かれた。
少し傷つくよ、毎回思うけど。

「兄貴もよー、いい加減素直になってやれよ。
 判ってんだろ、さんが意地っ張りってことくらい。」

裕太は、怪訝な顔をしたであろう僕を特に気にすることもなく、心底参ってると言わんばかりの表情でぼやく。

ああ、やっぱり僕のことなんだ。
今度は少しニヤけてしまう、なんて本人に聞かれたら怒るかな。

「うん。折れてくれないかなってさ。」
「それがまどろっこしいんだよ。
 このままじゃ一生平行線だぜ?」

俺女の子に泣かれると困るんだよ…
後ろ頭を掻きながら眉間に皺を寄せる裕太にお礼を言いながら、目を腫らしたウサギを探し始めた。




さっき裕太に言ったことは本心で。
いつかが折れてくれる、それまで言い合い出来る関係で居ようと、待とうと思ってて。

でも―、








「…」

テニスコートに隣接されている広場の前。
ベンチに腰掛けて足をブラブラ揺らしながら座っているを見つけたのは、裕太と別れて20分くらい経った頃。
流石の僕も汗びっしょりで、何かが喉に貼りついたみたいに声が出なくて、息苦しさを覚えた。

「ふ、じ…!」

肩に手を掛けて名前をささやくと、はかなり驚いたらしい。
目を見開いて固まってしまった。
僕は僕で、を見つけたことで力が抜けて立っていられなくなり、抗うことなくベンチに雪崩れ込むような形で座る。

「な、何!?どうしたの?」
「…あつい…」
「え、熱中症!?ちょ、ちょっと待ってて!」

正しくは日射病じゃないかな、どちらにせよ違うと思うけど。
なんて言い返す間もなくは走り出した。
あんなにびっくりしてたのに、すぐに動けるなんてすごい。
ああでも、折角捜し当てたんだから行かないで。
虚ろに流れていく思考。

ヤワな鍛え方はしていない筈だけど、結構体力を消耗していたらしい。
の声が近くに聞こえるまで目を瞑って呼吸を整えた。



「不二!」

ひやり、冷えた感触に目を開けると不安げに瞳を揺らすが正面にしゃがんで居た。

「大丈夫!?今飲み物買ってきたよ。あとホラ、濡れタオル!」

言いながら飲み物を突き出すに、笑みが零れる。


ねぇ、自分が汗だくになってどうするの?
肩で息をしてるのは走ってきてくれたからでしょう。
試合の後はあんなにツンケンしてたのに…


「不思議な子だよね、君って。」
「…なにが?」

飲み物を受け取らずに居る僕に困惑した表情を向けてのぞきこんでくるに愛しさを覚える。

「思ってる事言わないし、でもそれですぐ泣くし。
 本当は、こんなに優しいし。」
「ばっ…て、そんなの良いから早く休んで!」

ぽつり、に向けて呟くと、動揺して無理矢理濡れタオル顔に押し付けてきたから、その手をぎゅっと握った。

「それに、僕の素を知ってるくせに、僕のことスキになるし。」
「す、きって…」
「は僕のこと、スキでしょう?」

尚も続ける僕が、今までかわし続けてきた内容に触れた途端、は勢い良く立ち上がって僕の手を振り解いた。

「すきなんかじゃ…んむっ」
「それは、例え照れ隠しでも言わないで。」

今にも否定の紡ごうとする口を、追うように立ち上がって手のひらで止めた。
視線が、ぶつかる。






しばらくすると、は肩を落として、僕の手を取るのと一緒に溜め息をついた。

「不二は、意地悪だよいつも。
 何でそんな風に言うの?
 言うつもりが無いの?言わせたいの?

 …自分を出してくれないのは不二だって一緒じゃない。」

それは今にも泣きそうな声だった。
絞り出すように音に変えて、僕を見た。
ぎゅっと細い指先に力が籠もる。


「そうだね、」


今までの僕は確かにそうだった。
そしてまた、今もそれを繰り返そうとしていた。

でも、でもね。
判ったんだ。


「僕は君が好きだよ。君が居なくちゃ、駄目なんだ。」


が、ヒュッと短く息を飲む。
固まったままのを見て、ただ、思う。


あんな姿見て、待つ余裕なんて持てない。
あんな声を聞いてしまったら、君に届けずにはいられないんだ。

いつだって僕が隣に居たい。
君と一緒なら、もう負けでも何でも良いから。


「そばに居させて。」

懇願に近かったかもしれない。
握った手は少し汗ばんでいた。

「ず、るい。何でいきなり…」

は思い切り顔をそむけて目を伏せた。
微かに見て取れる感情に、少なくとも嫌悪は無さそうだけど、やっぱり嫌に不安で、心臓がドクドクと大きく粗く脈を打つ。
ポタリ、汗が頬を伝って地面に染み込んだ。

「わたし、ずっと不二に、かわいくないこと言ってきた。
 そのたびに、今度こそ嫌われたかもしれないって思ってた。」

懸命に言葉を探すから、目が離せない。
互いが互いに素直な気持ちを言うのは初めてだから、新しい一面を見ているような気がした。

「嫌なこといっぱい言ったけど、ずっとずっと好き、だったよ不二。
 私で、良いの?」

耳を震わせたのは不器用ならしい愛の言葉で、胸がじんわり熱くなるのを感じた。


「が良い、…なんて月並み?
 でも、それしか…言葉が浮かばないんだ。」

本当なら、待たせてごめんとか、どんなところが好きだとか、沢山沢山、言うことはある筈なのに。
どうしよう、言葉にならないんだ。


「…」


無我夢中で抱き締めた、そっと抱き返された。
それが何にも代え難いもので、思いを伝えて良かったと、心から思えた。




空は抜けるような青で、僕の目に、そして多分君の目に、この上なく美しく映った。






何もない空の青








080825 後半長ッ!! 書いた時期が離れまくってるのもあるんですが、不二の心情をつらつら書いてたらほぼ倍くらいの長さに。 ふふふふ。 最初は「忘れていた」のセリフに衝撃を受けて意地っ張りヒロインさんを書き始めただけだったのに、気付いたら不二の方が喋ってくれました。棚ぼた!! 不二はタイプは違うけど恋愛に対して仁王と似てると思うんですね。 まぁつまり、本気になったらすごいぞ、と。 軽くかわしてきた分、これからはガンガン攻めていくと思います。 しかし久々に書いた…!! ネタ自体は不二の誕生日より遥かに前からあったんですが、書き上げたのは久々。何かものすごく達成感です。 ↑ってもはやいつ書いたのか判らないです、いつだ。多分今年だけど。 題名が決まらなかったせいでずっと出せなかったんです。笑 ようやく日の目を見たね不二。 台詞の そうだね に自分でツボりました。意図してないキャストネタ。 題名地味に考えまくったんですよ。 最初は雲って言う障害があるけど、最終的にはまっさらになるんだよっていう。 中身的に暗い方が明るめの題な気がするのも天邪鬼な感じですかね。