「映画見たら感動して泣きそうになったんだけど!」


なんて、下らない話題が事の始まり。

相手はテニス部部長の幸村君。
テニス部じゃないけどそれなりに部活が忙しかったから、今日は久々のお見舞い。


私は昨日見たテレビ放送の映画について無駄に熱く語って、彼は軽く相づちを打ちながらそれを聞いてくれた。
一通り話し終わってその映画の原作本を幸村君に手渡すと、「ありがとう」と私の頭を撫でる。

同い年なのにな、まぁいいか嫌いじゃ無いし。



悶々考えていると幸村君は


「あ、そうだ」


と、今思い出したと言わんばかりの声を発した。


「どうしたの?」


そのときの彼の顔が素晴らしく素敵だったので(いろんな意味で)、話を拾うことに躊躇したんだけど、やっぱり同じ素晴らしく素敵な顔に負けて頑張った。


「が本当に泣きそうになるときの癖って、自覚してるのかな?」


直後は言葉の意味が理解出来なかった。

きっとこれは私が言った「泣きそうになった」に対しての言葉だったんだろう。
でも、癖なんてあるものなの?
判らない。



「…なに?」


仕方なく尋ね返すと、少し満足気な幸村君。
もったいぶって間をあけた後、ゆっくりとした口調で答えをくれた。


「やっぱり判ってない、か。
 喋らないんだよ、全然。何も喋らないんだ。」


最初は怒ってるのかと思ってたけど。

そう呟いて私の目を真っ直ぐ見る。


「そうしなきゃ泣いちゃいそうで、自分を保てなくなりそうで、必死なんだろ?」


柳君みたいな解析に加えて、違うか?と、視線に訴えかけられた。






「幸村君って、やなやつだ。」


返す言葉がそれしか見つからなかった。


「そうかい?」
「そうだよ。」



だって当たってるから。

悔しいし何より恥ずかしくて、上体を曲げうつ伏せになって膝に体重を預ける。
でろーんと力を抜いたフリして、顔を隠した。

完璧に言い当てられたら、もごもご答えるしかすべがないじゃないか。






「すごいね、幸村君は。」
「判るのはせいぜいレギュラーとお前のことだけだよ。」


ため息交じりに体を起こすと、柔和な笑顔がそこにある。

凜とした顔も好きだけど、こういった表情が似合う人、なんだ。



「あ、テニス面は別だけど。
 部長たる者、部員の技術やメンタルについて気を配りたいから。」


私が黙っていたのを呆けたと取ったのか何なのか、幸村君は更に補足をした。

正しくは、惚けたなんです。
なんて言えないけど。



「すごいや、部長の鏡だね。」


内心慌てつつ、それでも何とか冷静さを取り繕えたはずなのに、ちらりと見ると少しムッとした様子の彼。


「意味判ってる?」
「何が?」
「…判ってない?」
「部員のこと思ってるって話じゃないの?」
「違う。」


飛び交う疑問符も、少し苛立った否定も、幸村君にしては珍しい。
でも、不興を買うような返事をした覚えは無いはずなのに。


「じゃあ何。」
「俺は、レギュラーと誰のことは判るって言った?」


ここまで言われて、掛け合いの理由を理解する。
今はテニスのことが本筋じゃないんだってこと。


いや、でも待て私落ち着け。
レギュラーと誰のことなら判るって?


そんな都合の良い話がある訳ない。



「やっぱり、聞いてなかったんだろ?」
「聞いてたよ!」
「じゃあ、誰って言った?俺は。」


尚も続く掛け合い。
まだるっこしい、そんなに訴えたいことなら自分で言えば良いのに。

―ああ、言わせたいのか、やっぱりやなやつだ。

外れてたら、つらいのに。



「わ、たし?」
「…よくできました。」


どうやらきちんと言えたらしい。
双方の期待がこめられた答えを。


幸村君は満足そうに頷いて、私の耳に唇を寄せる。


「つまり、は特別ってこと。」


突然で思いもよらなかった言葉と、にっこり笑った彼にはもう到底かなわなくて、涙を零さないように俯いて黙り込んだ。






君は何でも知っている






080821 幸村様と山本君で迷ったんだけど、ベースの時点で幸村に喋らせちゃったんでそのまま幸村にしました。 幸村はかっこいいのです。 ブン太は男前。 赤也はかっこ可愛い。 ジャッカルは癒し。 仁王はもう良く判らん。笑 つまりはかっこいい幸村が書きたかったのです。 かっこいいですかね?笑 幸村さん実は照れ隠しでテニスの話題を出したんですが、本当にテニスの方に流れてっちゃって若干拗ねてるんです。とか言う裏事情。 何かそれだとワガママちんですね彼。笑 最近ネタは出るのに上手く話にならなくて凹む日々です… 文才プリーズ…