「君はいつもここに居るの?」



顔を上げれば、そこには漆黒のひと。

私はまた、読みかけの本を静かに閉じた。






彼が話しかけてきたのはこれで3度目だ。
1回目は連絡先を聞かれ、2回目はすれ違いざまの挨拶(だった気がする)。


空気が張り詰めた気がしたのは多分この人のせいだろう。
相変わらず、彼の手には静寂がある。



「はい。」
「部活は?」
「してません。」
「委員会は?」
「クラスの黒板・ストーブ係です。」
「ふぅん、そう。」


淡々と進められる会話に、顔色の悪い図書委員の人たちは恐々と聞き耳をたてる。

私がこの人の逆鱗に触れるかが心配でならないのだろう。




そんな人じゃ、ないのに。





「じゃあ、暇なんだね。」
「はい。」
「ついて来て。」
「本を戻してきても良いですか?」


既に歩み始めている彼の背中に投げかけた。
図書委員の顔が引きつる。







だから、





「借りていくなら待つよ。」





大丈夫なのに。




「いいえ、また今度で良いです。」
「そう。」


彼の気遣いが嬉しくて、少し急ぎ足になる。
パタパタと上履きを鳴らしながら、棚に本を戻して息を吐く。



くるり、振り返ると、彼がこちらを見ていた。







誘いの図書室






091024