「庶務、って具体的に何をすれば良いんですか。」 ティーカップに薄ピンクの唇を寄せながら、彼女は首を傾げた。 一言も発しない僕と君。 何処に向かうとは言わなかったけれど、彼女は黙ってついてきた。 とてもいい気分だったのに、遠巻きに草食動物たちの視線を感じるのが疎ましい。 咬み殺してやろうかと思ったけれど、横目で彼女を見ると微笑んだのでやめておいた。 応接室のソファに浅く腰掛けた彼女は、 「初めて入りました」 と物珍しそうに部屋を見回して、壁際に居た草壁に少しだけ驚いた。 感情の変化がないのかと思っていたけれど、そうでもないらしい。 小さな発見だ。 そんなどうでも良いことを記憶に刻もうとした自分が滑稽だと思った。 草壁が飲み物を用意する音がやけに五月蝿い。 陶器の甲高い、喚くような声を聞きながら、ややあって彼女を切り出した。 「暇なら庶務をやらないか」 と。 その頃には紅茶が目の前に置かれて、彼女が小さく礼を言っていたから、実際は無言の時間がいくらか存在したのだろう。 柄にもなく戸惑っていたのかもしれない。 だけど僕が思うほど彼女は空白を気に留めることはなかったようで、先ほどの言葉に至った、ということになる。 「僕や草壁は外回りが主だから、こうしてここに居る時間があまり長くはないんだ。」 「はい。」 「だからその間に書類の整理とか、してほしいんだけど。」 「何でわたし、なんですか?」 彼女は特別怯えたようでもなく、話に軽い相づちを打ってから、きょとんとした目で僕を見た。 「君のクラスの風紀委員より、よっぽど使えそうだからだよ。」 正義になりたいだかなんだか知らないけれど、面倒な奴だ。 顔がよぎって苛立ったけれど、彼女は自分のクラスの人間が思い出せなかったらしく、首を傾げた。 その仕草が面白かったからこれも、なかったことにしてやる。 「やることはないので構いませんが、邪魔になるかもしれませんよ。」 彼女は僕の答えに納得したらしい。 特に迷う様子もなく、あっさり言い放った。 断るとどうなるかを考えてのことでは無さそうで。 その自由さが、彼女の魅力のように思えた。 「じゃあ交渉成立だね。困ったら僕に聞けば良いよ。」 「はい。よろしくお願いします。」 深々と頭を下げる彼女に、少しだけ心を乱されて。 帰り際、あまりにも真面目な顔で、 「私も委員長とお呼びするべきですか」 と聞いてきたから、僕はまた面白くなって笑いながら、「いらない」と答えた。 少しだけ上がった口角 091024 ←