その日は朝から雨だった。

薄闇を、妙に強調された白熱灯が助長する、イヤな雰囲気。
霧雨も今や叩きつけるような激しさに変わっている。

残念なことに傘もなく、帰るに帰れない。

ああ、早くあの部屋で静寂に抱かれたいのに。




「上の空だね。」
「あ、え…」


窓辺には居たくなくて、図書室でも内側の席で本を広げていた。
だけどそんなことでこの嫌な感覚が治まる訳もなく、実際は遠くで響く運動部のかけ声をぼんやり聞いていただけだった。

その声が不意に止んだなぁと思っていたら、目の前には彼が居て。

いつから見ていたのだろうと本を閉じると、フッと笑って私の手を引いた。


「あ、あの…!」
「することないなら来てって言ったのに。どうかしたの?」

約束というより命令に近かったそれを、私は忠実に守ってきた。

だけど、

「あ、その、すみません…」

どうしたことだろう、すっかり失念していた。

「熱でもある?」
「大丈夫です。少し…ぼんやりしてただけで。」

眉間に皺を寄せながら私の顔を覗き込む。
読めない表情の中にほんの少し翳りが見えて、私は慌てて首を振った。










バリ、バリバリ


応接室のすみっこにも、その音は着実に近付いてきた。

閃光で辺りが白み、机上の書類が舞う。

反射的に身構えた瞬間、世界を裂くように、大きな音が、した。


「ゃ…」


途端にボロボロと涙が零れ落ちる。


「いや…怖い…」
「…?」


雷鳴は止まらず、窓にまでビリビリと衝撃を与えていく。
今年始まって以来の雷雨だった。



鈍く、何かに包まれたように音が聞こえる。
耳の中を針で刺されてるみたいだ。
この感覚に、覚えが無いはずが無い。


耳を塞いでも隙間から抜けていく音に、呼吸すらつらく感じる。


「…!」


抱きとめられた体温と、鼓動の音に幾分落ち着いて、ゆっくりと意識を手放した。








世界を裂く光













091222