気を失うほどの恐怖を与えたのは何なんだい?

光への不安?
それとも―…



夕焼けを通り越してもう夜だ。
彼女は星が瞬き始めた頃にようやく目覚めた。


「あ、たし…?」
「おはよう。よく眠れたかい?」


首を起こすと、今自分がどういう状況にあるかがわかったらしい。
慌てて身を捩って


「ごめんなさい!」


と叫んだ。



「君は、音が嫌いなの?」


僕は未だを腕に抱きつつ問いかける。
瞬間、微かに躊躇った…気がする。
黒目がちの瞳が揺れて、息を潜めたから。


「大きな音は嫌い、です。」


ゆっくり口を開いたは、こちらから目線を外して俯いた。


「私の父さんと母さんは、マフィアの抗争に巻き込まれて死んだから。」


今も耳に残る銃声。
私から全てを奪った音だ。
と、は怒りよりも悲しみを帯びた目でそう述べた。









「ボンゴレファミリーの9代目ってひとが、私の保護者。
 ナディアさんって人が私の保護者代役兼ガードマン。」


9代目はとても良い人だ。
焼け跡で立ち尽くした私に、手を差し伸べてくれたから。
父や母のお墓も、私の生活も学校も、全て支えてくれた。

抗争にボンゴレは関係無かったと聞いたのは最近の話で、つまりあの人は罪も磐余も無いのに、私を引き取ってくれた事になる。
懐が大きくて、暖かい人。

マフィアがトラウマになった私がボンゴレに居られたのも、9代目と周りの暖かなファミリーと遊び相手になってくれたディーノ兄のお陰だ。



だけどこんな小娘一人を生かして、何になるんだろう。
私が生きてても、酸素やお金や他の生き物が減るばかりで、意味もありはしないのに。



くるしい。





「そう、」


雲雀さんは一言呟いたきり何も言わない。
重い話だと思ったけど、気にしていないならそれが一番だ。
変わったことと言えば、雲雀さんの腕に力が少しこもったことくらい。


「雲雀さんの周りは静かで好きです。」
「そう。」


心音を捕らえながら見上げれば、骨っぽい指が私の髪を撫でる。
優しい感触に目を細めると、雲雀さんもふわりと、笑った気がした。






世界を守る腕















091222