簡単に言えばそう、拉致された。
見覚えも何も無かったけど、反射的に私の両親を討った仇だと判った。


ただ学校に行こうとしてたんだけどな。
何か強い力で意識を吹っ飛ばされて、連れて来られたのは山奥の寂れた洋館。
これまたありがちな…
と思い息をつくと、思い切り蹴り飛ばされ、今度は体が吹っ飛んだ。


「余裕なフリしてんじゃねぇよ!」

カリカリしている見張りの一人は、新入りなんだろうか対応が荒い。
ズンと重くなった脇腹を意識しながら前を向くと、私を連れてきた方が猫なで声で歩み寄ってきた。

「大丈夫かいお嬢ちゃん。痛かったかい?」

労りの言葉に反吐が出そう。


「別に…」
「そうかい、流石だね。」

代わりに吐き捨てるように呟けば、

ガツン、

頭を何かで殴られ意識が飛びかけた。

「俺達の痛みはそんなもんじゃねぇ。」

それが私の鞄だと判った時には、額から赤い血が流れていた。





「アイツらボンゴレのせいでうちは…!」

いかにも辛酸を舐めてきましたという顔で語る元幹部を、鼻で笑いたくなる。
だってアンタ達が弱いからじゃないか。


でもそんなことはどうでも良いことだった。

怒りと恐怖で震えているのに、心は酷く冷えていて、鈍く光る銃口に、ただ、


最後にあの音に壊されるのは、私の命か。


そう漠然と思った。




ゴツ、突きつけられた固いものは言うまでもない、先ほどから私に向けられていた小型のピストルだろう。

「泣き叫びもしないところはボンゴレに育てられただけあるな。」

卑下な笑みを視界に入れるのも厭わしく、目を閉じる。
カチリ、安全装置の外れた音が鮮明に聞こえた。

「さよならだ、バンビーナ。」

ああそうか、さようならか。

いざ、さよならとなるとどうして良いのか判らない。
そうだ、伝えられなかったのは悲しいな。

「だいすき、だよ雲雀さん。」

瞼に浮かぶ漆黒の人に、さよならより告げたかった言葉を投げた。








それが届かないことくらい、とうに知っている。












100115