隣の席のヤツが楽しそうに話していたホラー映画のストーリー。


何で聞いちゃったんだろう…。


耳に入って来たそれの最初の時点で、何で席から離れようと思わなかったんだろう。
何で隣で話してたんだろう。
何で水系の話なんだろう。


何でこういう話がダメな人に生まれてきたんだろう。


怖い話



「なぁ、は何であんなに影背負ってんだ?」
「…さぁ?」
部活中、レギュラー含め、こんな囁きが絶えなかったと言う。
勿論後から聞いた話だけれども。



というわけでみんなが私の話をしているなんて知らず、一人部室にこもり試合のスコアをまとめていた。
マジ怖い。
どうしようもなく怖くてまだ今日の分の洗濯してない。
時計の針の音が五月蝿い。
窓が風で揺れる音すら今の私には怪奇現象に感じる。
気を紛わせる為に落書きとかしても落ち着かなくて…。

困った。


そんな時。


「―…?」
「はいぃぃ!?」
背後から声をかけられた。
丁度その映画のように。
既に泣きそうですけど何か!?

でも、掛けられた声は優しくて、流石にゾンビとか死体とかそういう類ではないとはすぐに理解した。


一呼吸おいて振り返ると人の体。(足つき)
自分よりかなり背が高いらしい。
恐る恐る見上げると、そこには
「長太郎かぁ…」
彼が居た。
「長太郎かぁ…って…」
あたしは心底安堵し、彼は軽く傷ついている。
「大変誠にビックリしたの。」
あんなの間に受けちゃうあたしもあたしだけど。
小さく溜息つくと、長太郎は思い出したように
「そう、その理由を聞きに来たんだ。」
と言った。
「理由?」
いきなり理由とか言われても何なんだかさっぱりだ。
「そう、影背負ってる理由。」


「…ショッテナイヨ。」
「嘘つき。」
即効嘘つき呼ばわりされました。
確かに嘘だけどさ。

あんなおぞましいこと言えない。
+
バカにされない訳が無い。
の事だからホラーとか怪談とか、その手の話なんじゃないの?」
しかもばっちり推理されてるし。
判ってるならハナから聞くなよぅ。
「…だって怖いじゃん…」
ここまできては仕方ないので事のあらましを話し始めると、どういう訳か長太郎は大爆笑し始めた。
「長太郎君、新手のいじめデスカ?」
人放置してひたすら笑う長太郎君。
「え…、違うよ。」
違うと顔が言ってないよ。
「涙出してまで笑わんでも良いと思う。」
酷だ。
「いや、だって“らしい”なぁって」
首を傾けながら、意味不明な発言。
「らしい?」
らしいって…。
「人の話うっかり聞いて怯えてるって、すごくらしいよ」

どんならしいだ。

「―けなしてるでしょ。」
ふてくされて長太郎を上目に睨む。
「褒めてる褒めてる。」
言ってる端から笑ってるし。
「うさんくさー…」
「や…ホントだって!!」
信憑性無いよ?
「いいよ。笑いたいなら笑うがいいさ!!」
半ばヤケになって喚いた。

「可愛いなって事だよ。」
それに対して長太郎はにっこり微笑んだ。

またコイツは…っ!!

そりゃあもう赤面ですよ!!
「ばっか!!いきなり言わないでよ!!」
体中が熱くなる。
「本当、弱いよね褒め言葉。」
だいたいいきなりじゃなきゃいつ言うの?なんて言って。

褒め言葉に弱い訳じゃあ無い。
「長太郎が言うから、だよ。」
「ん。知ってる。」
「殺し文句と言うんだよ。」
「随分弱い言葉だなぁ。」
「いーえ滅相もゴザイマセン。」
君に言われればどんな言葉でも殺し文句です。

参ったなぁ。

「ね、。」
改まって名前呼ばれたから、何かと思えば…
「忘れたでしょ、怖かったの。」
だって。
「あ。」
確かに、頭から消え去ってた。
そんなモノより彼の事でいっぱいで。
「結論。
つまり俺と一緒なら怖くないって事だよ。」
…こういう事さらっといえる辺り長太郎だと思う。
「ホントかよぅ…」
胡散臭い。
「本当。」
自信ありありだなぁおい。
「怖くならないように、手を繋いでるから。
もう大丈夫。」
心でつっこみまくりつつも、ぎゅっと握られた手に不覚にも安心してしまったあたしが居るのであった。




そうだね。
ある意味一番怖いような気もするけど、長太郎と一緒に居ればきっと恐怖はどんどん小さくなるから。


「…ありがと。」


今はもう、怖くないよ。



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ちょた可愛いですよね。
似非ですみません…!!



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