「珍しいね、武がダウンするなんて。」





土曜の昼下がり、山本家に着いたらおじさんが

「あー、今武のヤツ寝てんだよな。」

と言いながら私を彼の部屋に通してくれた。
上がらせてもらうとうつ伏せになって寝転がる武が目に入る。
とりあえず声をかけてみると首だけこちらに向けた。


「んー…」


だけどその口から返ってきたのは恐ろしく覇気のない返事で。
どうしようか、と考えた結果、とりあえず近くに座って2、3言葉を投げかける。


「何かあったの?」
「んー…」
「大丈夫?」
「んー…」
「たけちゃーん?」
「んー…」


あきらかに気だるそう。

そういえばこの間、泥だらけで帰ってきたっけ。
遊びすぎたとか言ってたのは信じてないけど、何にせよ疲れてるんだろう。
睡眠妨害は敵だ、うん。


「ごめん、やっぱ私帰るね。」
「やだ。」


決心して立ち上がった途端、私の腕をしっかり掴んで上目にこちらを見る。
君、寝ぼけてたんじゃないんですか。
折角自己完結したのに。即答かよ。


「何で。」
「だって武つらそうじゃん。」
「喋らない俺といるのは、イヤ?」


何だこいつ可愛いなこんちくしょう。
必死に腕を支えてる姿に思いっきり揺らいでしまう。
いやいやダメだって!


「いやじゃないよ。邪魔したくないだけだよ。」


帰る宣言にしょげている武が、まるで捨てられた子犬のようだったから、なだめるように頭を撫でてやる。



だから、ね。


強くなっていくあなたの手から解放して下さい。

寝てるくせにどんな力だお前。




「邪魔じゃないから、帰んないで。」


ぐずるような声を出し、だめだめと首を振ると、あろうことか武は、更に力を込めて私を布団に引きずり込んだ。


「ちょっちょっ、武!」
「このままそばに居て。
 起きたらうんとキスさせて。」


どうやら限界だったらしい、それだけ言って腕から手に握り直すと、頬を赤く染める私を気に留めることなく、すぅすぅと寝息を立て始めた。










まったく、こいつは…

ため息を尽きながら座り直すと、もう一度武の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「おつかれさま、」


「何やってんの馬鹿」とか文句言ってやりたいけど。

何にしたって生きて帰ってきたから、眠り姫ならぬ眠り王子が目覚めるまでそばに居てあげるとしましょう。




カーテンを揺らす悪戯な風に髪を遊ばせながら、ゆっくりと目をつむった。




しばしおやすみ







080906 イメージとしては黒曜のあとくらい。 だだっこ武かわいい 睡眠ネタ何個目だろう…