自転車を飛ばして、ヒバリにつかまって。いいじゃん、何!  ―そんな声。

校門前に響き渡るいつもの声。




あいつらの日常。




「」

嫌そう、だけど満更でもないだろうヒバリの顔。


ヒバリとは、小さい頃から一緒に育った、いわゆる“幼なじみ”ってやつ。
だから相手の時はヒバリも少しだけ年相応に見える(何歳かは判んねぇけど)。



それに比べて俺とは、ただのクラスメイトにすぎない。





「、よ!」
「あっ、えあ、やま、もとくん!おはよう…!!」


ヒバリと小さく口論していただったけど、俺の声がすると振り返ってくれた。
ところどころ裏返った声が可愛い。

校門を通りがてら、ヒバリにしか向いていない世界をこちらへも広げてもらう。


「、何その声。うざ。」
「うるっさいなぁ!!仕方ないじゃんか…!」


―と、ヒバリはその様子が気に食わなかったらしく、さらっと毒を吐く。
もムキになって噛み付くんだから、二人で過ごした時の長さを思わずには居られない。

風紀委員長のヒバリが相手なんだ。
普通の子、ましてや女の子なら怖くてたまらないと思う。




「って、あれ、山本君、どうしたの?」


通り過ぎたと思っていたんだろうか、未だに二人のやりとりを見守っていた俺はきょとんとした顔を向けられる。
明らかに蚊帳の外だと思い知らされるその言葉に、ズキリ、胸が痛んだ。


「いや?仲いーな!」
「あ、うん。」


何でもない風を装ってみるも、穏やかでは居られない。
いつもは質問したらオロオロしてるのにな。

躊躇いのない肯定に、見えない信頼が裏付けされてて。
無性に、悔しかった。










きっと。
きっとは、俺の事スキ、だと思う。
声かけると顔真っ赤にするし、ぼんやりしているとよく目があうし。


でもなぁ…

心の中でうーん…と唸る。

もっとヒバリ相手にしてる時みたいに、俺としゃべってほしい。ツナとか獄寺とか、あいつらよりもっと緊張されてる気がする。
そりゃ意識されるってのも悪くないけど、さ。



それで口数が減るのはちょっと…


あいつらの方がをいっぱい知ってるって、やっぱ悔しいし。
自然に、一緒に居られるヤツになりたいな。


「あ゛ーっ!」


モヤモヤしたものを内に溜めきれずに叫ぶと、先生からチョークが飛んできた。(避けた)(ら、後ろのツナに当たった)(わりぃ)














困っている俺を見かねてか、放課後にチャンスが舞い降りた。
夕日の差す教室に忘れ物を取りに戻ると、机の中をひっくり返しているの姿があったんだ。


「!忘れ物…か?」
「えっ、あ、山本君…!」


途端にばっと立ち上がるに自然と笑みが零れる。

同じ理由でここに居ることが嬉しい。
キョトンとこっちを見る目も仕草も可愛くてたまらない。

なぁ、もっといっぱい、ヒバリなんかよりずっとずっと、いろんなお前を見せてくれよ。



ああ、でも。

もしヒバリがスキだったらどうしようか。



浮いた瞬間沈んでいく心。
どうしようもなく不安定だ。白い紙に落ちたインクのように、じわり、不安が広がっていく。


「なー、とヒバリって、付き合ってんの?」
「え、きょーや?」


さらりと零れ落ちた名前に、また感じる長い長い関係。
質問の答えすらもらってないのに、息が苦しくなった。




だけど、それに続いたのは、予想だにしなかった言葉。


「恋人居るよ。」
「…え。」


飲み込みきれない俺に、ぽつぽつと紡がれる〇〇の声。


「あ、と…知らない方がレア…なような…」
「誰!?」
「わたしの、しんゆー、だけど。」


思わず声を荒げてしまうのは、仕方のないことだと思いたい。

の親友…って、クラス違うけどいつも一緒にいる、あの子…?


「マジで?」
「うん、ほんとだよ。」


ふわっと笑ったはすげぇ幸せそう。
大切な人が幸せなのが嬉しい、そんな顔。

相手のことは何も知らなかったけど、ぼんやりと浮かんだ二人の姿に、酷く安心した。



「じゃあ、俺。」
「うん?」
「可能性、あんのかな。」
「え、と?」


困ってるなぁとありあり判る表情。
内容が突飛すぎたのは自覚している。


「ん、今日はそれでいーや。」
「よかった、ね?」
「おぅ!」


まだ判ってもらえなくて良い。


首を傾げるに“ばいばい”って手を振って、グラウンドに向かってがむしゃらに走る。
キラキラの笑顔を思い出しながら、もっと早く。


早く、君にたどり着けるように。





まだ空の君の隣に





座るのは俺だ!














090517