、最近どうした?」
「え?」

隣にいる幸村が急にそんなことを言い出したのは、次の授業まであと7分と言ったところ。

「顔変だし。さっきから喋ってる内容が文章になってないぞ。」
「どうせ変な顔。」
「そういう意味じゃない。」

そういう風な言い方をしたのは君でしょう、精市君。

「…」
「…」
「…」
「…」
「…」

―もう、判ってるよ。
沈黙が物語るのは幸村の意志。
彼は尋ねたことを返されるまで、ずっとこのままだ。

このままって言うのは、相手をじっと見つめるって状態。
こうなってしまうと丸井君や切原君でさえ嘘や言い訳で切り抜けられたことがない。
つまり私も同じ。



「眠れないだけ。」
「じゃあ、今日泊まりに行く。」
「は?」

観念して正直に答えると、とんでもない回答。

「お互いの心臓の音聞いてれば、すぐ眠れるさ。」

いやいや、ダメだろう。
親公認なのと一緒に寝るのは違うだろう。

「君が眠るまで…眠っても、ずっと手を握ってるから。」

畜生。不覚にもときめいた自分が憎い。



抵抗する術が見つからなくて、「お願いします」が喉から出かけた時、

「…でも、今の方が良さそうだな。」

考えてた風だった幸村は「よっこいしょ」と顔に似合わない声を出し、私に左手を差し出した。









「寝転ぶと汚れるから。肩貸すよ。」

連れてこられたのは屋上。
幸村は手すりにもたれかかると、こっちと手招きした。
屋上の日差しと心地よい風と幸村のあたたかさに、驚くくらい自然に目を閉じることが出来る。

「ゆっくり眠っていいからね。」

幸村の穏やかな声が優しく誘う。
一番伝えなきゃいけない「ありがとう」は起きた時に言うから。


ごめん、ちょっとだけ。



「おやすみ」って声と頭を撫でられる感触を感じながら、久しぶりの眠気に身を任せた。





まどろみの屋上




祝1周年。 ありがとうございます!