どうしよう跡部君!


データマン乾、柳に、観月。
沖縄全部。
無駄にカンが良い幸村、仁王。
別路線で忍足、千石。
以上には最低限気をつけろ。


そう言われたのはまだ30分前だったと記憶する。

ばっちりブラックリストの人に話しかけられた。
しかも何かバレてる?

とりあえず引いてくれたけど、覚悟しろって…



「あぁもう…」

負担だ。ものすごく負担だ。
ただでさえ思い出すとめまいがしそうなのに。

本当に黙っていていいのかと、自分が自分に警報を鳴らす。
全く知らない42人よりも、友達を取りたいと思うのは変だろうか?
だけど彼らも必死な訳で。
かなり頼み込まれたのもある訳で。



もういやだ…

初日から挫けそうだった。
寝込んでしまえば良かったなぁと思うけど、それはそれで無駄に心配をかける訳で、
つまるところ私が我慢する他ないだろうと思う。



「せーんぱいっ」

輪をかけて落ち込み始めたところを、明るい声が拾い上げた。

「…赤也君。」

本人に切原君はやめてくれ、と言われたので赤也君と呼ぶことになった。
そのまだ口に慣れない名前を呼ぶ。

「大丈夫ですか?」

彼は昨日も今朝も昼も…出会った時から私を気にかけてくれている。
勿論彼だけでは無いけれど、彼は特に頻繁に声をかけてくれる。
優しい子なんだと思う。

「うん、大丈夫。」
「ホントっスか?
 俺ら普段からヤローばっかりで女子の事とか判んねぇから、無理しちゃ駄目ですよ。」

ヘラっと笑う彼が、天使にさえみえる。
こんな状況だからか、人の温かさが一層身にしみる。

そんな優しさを噛みしめつつも、やはり目が行くのは黄色いジャージで。
そうか、あの人と彼は同じ学校だった。
あの人も親しげにしていたような気がする。

ウジウジしてても仕様がないなら、聞くべきかもしれない。
少しでも立ち向かえる余地が欲しい。
あの銀髪の男に…


「ねぇ、仁王君ってどんな人?」
「仁王先輩?気になるんスか?」
「う…あー、船の時から謎だったから。」

無理がある言い訳だったが、赤也君はさほど疑いもせず―しかし何故か眉間に少し皺を寄せて―口を開いた。

「コート上の詐欺師。」
「え?」
「あの人の通り名ッスよ。
 策士で、罠にハメたりすんのが得意。」

空気が凍った気さえした。
だとすれば私は最悪の人を敵に回したことになる。
話かけられた時から感じていた焦りが、大きく膨らんでいく。

ヤバい、という顔をしていたんだろうか。

「大丈夫。遭難してるんですし、普通に頑張ってる女の子まで詐欺したりしませんよ。
 悪魔じゃないんですから。」

と、笑顔でフォローを入れてくれた。

「あはは、そう、だよね!」

彼は知ってなどいないだろう。
“狙われてる場合はどうなると思う?赤也君。”
そんな言葉、間違っても言えない。



どうやら、笑っている場合じゃなさそうだ。








070902