「なあ。何隠しとう?」


乙女のピンチです。



基本的に私達は好きに動いて良い。
つまり休憩もかっちり決まっていないし、誰の手伝いをしようが構わない。
おまけに私は二人と違って山海の区別をされてないから超のつく自由だ。

仁王君についての跡部君のアドバイスは
とにかく仁王に近付くな
だったので極力寄らないように寄らないように、海側の手伝いに行こうとしたんだけど。


どうしてこうなる。


海側に行こうとしたら掴まれた腕。
有無を言わず引っ張り出した相手は仁王雅治。
連れてこられたのは管理小屋の裏で、ちょっと死角になっている場所。
両脇を手でふさぎ、ドアップでにらめっこしてくる。
いや、にらめっこなんて可愛いもんじゃない。
このままじゃ私乙女じゃ居られなくなると思います。
ハンパない眼力と、整った顔。
アイドル好きの子じゃなくても普通に死ぬと思う。
いや、そんな理由じゃなく、単純に犯されるんじゃないか、って話なんだが。

「なななななな何も!?てかどいて下さいハレンチ!訴えるよ!!」

どうするかって抵抗するしか無い。
しかして仁王雅治と言う男はそう簡単には崩れない。

「助けが来るまでは無理、じゃろ?」
「うっさいな助けは来るよ!」
「いつ?」
「…知らないっ!だって信じるしか無いじゃない!!」

危ないよコレ!すぐボロ出ますよ!
今危うく来週…とか言いそうになったし。
誰か助けて…
だけど誰も通りかかりはしません、何故なら管理小屋だから。
私達の部屋に用事がある人なんてそうそういません。
どうする俺!?ってライフカードか!!
ああもうやだ涙出そう。

あ、そうだ泣いちゃえばいいんじゃ…!

泣く
↓↓
困る
↓↓
スキを見て逃げる

よし完璧だ!
やるしかない。


「どうして、こんな事…」

私は韓国かどっかの女優みたいに泣く事は出来ないから手のひらに爪を食い込ませる。痛い。
しかも地味に痛いだけで涙も出ない。
泣け…流れろ涙…


必死になって拳を握りしめながらふと思う。

どうして私がコイツの為に自虐的に涙を出そうとするまでして黙っていなきゃいけないんだろう。

と。
一人くらいバレたって構わないんじゃ無いかとも。
この人はあまり関心がなさそうだから喋らないと推測される。(むしろ人が苦しむからって黙ってみてるタイプだ、絶対
どうしてだかそう思った。
もういいんじゃないか?




だけど。
そうも思いつつも私は、自分の内に感じる強い思いを止められなかった。

コイツにだけは言いたくない。

負けたくないと取ってもいいだろう、闘争心が私に意地でも勝てと命令する。
加えて唇を噛む。
痛い。めっちゃ痛い。
頼む、出てくれ涙。


そんな私の考えを見透かしてか、彼の口からは努力を無駄にする冷たい言葉が降り注ぐ。

「嘘泣きはやめんしゃい。
 お前さん、自分を痛めつけて楽しいか?」
「楽しい訳あるかァァァ!!」

妙にニヤニヤした顔に嫌悪感すら覚えた。
こんな事好き好んでやるはずが無い。

「Mやったら気が合うかもな。俺ドSじゃけ。」

試してみるか?

言うや否や顔を近付けてくる。
私の事なんかお構い無しだ。
何をするつもりだ!何を!!
た、助けて…!


「そこまでにしたまえ仁王君!」

詐欺師が私を毒牙にかけんとしたまさにその時、逆行メガネを輝かせ紳士が現れた。

「や、ぎゅ…君…」
「ちッ…」

小さく舌打ちすると、大人しく手がどかされる。
そうか、柳生君が苦手…というかストッパーなのか。
私には柳生君が神に見えた。

「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう…」

実は腰が抜けてしまっていた私に、優しく手を差し伸べてくれた。
赤也君と言い…本当に優しさが身に染みる。

「仁王君!全く何をやっているんですか!」
「プリッ」

諫める柳生君に向かって、彼はごまかすように怪しげな言葉を放ってそっぽを向いた。(これが彼の口癖だと知ったのは後に赤也君に聞いてからだった


私は息を一つ吐き出すと、彼の前に立った。
そして―

「仁王。私、君には負けるつもり無いから。」

上目遣いに睨みつけて、宣戦布告。

「上等。」

仁王は私の鼻っ柱にデコピンしてそれに応えた。










070902