翌日、アイツは熱を出したとかでミーティングにすら出てこなかった。

体力ありそうなのに、人は見かけによらないんだなー。
なんて向日がほざいたからぶったたいてやった。
ヤツは理由が判らず怒ってきたが、殴った俺本人が、一番それを知りたいと思った。
正体の判らない何かが、俺の中で渦巻いていた。



それが気になった訳じゃない。
何の事はない、ただの気まぐれ。
うろついてたら着いてしまっただけだ。
アイツの部屋の前に立つと、ドアノブに手をかけた。
かすかに隙間から聞こえるのは、うちの所のリーダーと、アイツの声。

「大丈夫だよ。
 ちょっと水ぶっかかりすぎただけだから。」
「そうか…すまないな、苦労をさせて。」
「いいの。―手塚君、すごいね。偉いよ。」

俺相手にしてる時みたいに噛み付いた言い方ではない話し方。
こんな柔らかい声、出すんだな。
そう思うと、どこかがチリっと痛んだ気がした。

「お前は、良く頑張ってくれている。」
「そんな事無い。
 私なんか嘘も下手だし洗濯すら出来ないし、みんなを支えてあげられないし、おまけに一番大変な隊長達にまで迷惑かけちゃって…」


なっさけないなぁ



彼女は自分自身に心底嫌悪して、悔しさを吐き出した。
それは泣いているようにも聞こえた。

―ああ、まただ。
アイツの言葉が、俺の何かをキリっと締め付ける。
一体何だと言うんだろうか。
アイツの事が絡むといつもどこかが痛い。




その理由を考え込んでしまっていたら、不意に人の視線を感じた。

「盗み聞きたぁ珍しいじゃねぇか、仁王」
「跡部か。」

振り向けばそこには、海側のリーダーであらせられる氷帝部長が君臨していた。

「そんなに気になるかよ、あの姫が。」

相変わらず、鼻にかかる言い方をする奴だ。
関わりたくは無かったんだが、仕方無い。
この際、利用しておこう。

「別に。むしろお前さん達がわざわざアイツの見舞いに行く方が気になるな」

そっけなく答えて相手を見据える。
簡単に腹ん中は見せん。それが駆け引き。
だがコイツも馬鹿ではない。体の良い大義名分を、後ろめたさなど全く無く使いこなす。

「俺と手塚はリーダーだからな。
 体調不良者―しかも巻き込まれた奴なんだ。気にくらいかけるだろ。


 それで?お望みの情報は手に入ったか?」

射抜くような目線。
…おーおーやりおるな、やはり。
カンに障る男だ。
簡単に手札は見せんか。

「ああ。とりあえずお前らも一枚噛んでるって事は確信が持てたよ。」

これ以上やりあってもしょうもない。
そう言って笑ってやると、跡部は例のポーズ―手を顔に覆うアレ―をしながら同じように嫌みっぽく笑った。





本来のお前だったら…




その続きに、向日を殴った時より驚いたのは、認めたくないが事実だった。

俺はもう、敗者のようにそこから無言で立ち退くしか出来なかった。



070929