「先輩…」
「さん…」

「「「すみませんでしたっ!」」」



その時の私と言えば、ぼんやりと窓辺に立ち、まだ少し明るい星空を見ていた。
軽いノック音に応えると、部屋に入ってくるなり仲良く声を揃えて頭を下げてきた、昨日の三人。

「え、いやちょっ…そんな!」

彼らの真後ろには笑顔の幸村君が居た。




「ほんっっっっっとすみません先輩!」
「いや、もういいって…」
「だめッスよ!俺たちのせいでしょ!?」
「違うから。」

心配してくれてる事は明白で、それだけで許すを通り越して嬉しかった。

「だって…」

食い下がる越前君に、事の次第を並べる。

「まず湖にダイヴして、次に…まぁその水かけっこで、その後洗濯モノ追っかけて川にジャンピン、スコールでまたずぶ濡れで、食器洗いの勢いでバシャリ!みたいな?」
「うわ、やば。」
「昨日水難の相でも出てたんじゃないか?」
「うーん、そうかも。」

ははは、と笑うと「笑い事じゃ無いだろ?」と諫めれた。

「てか、何であん時既に真っ青だった人が仕事してるんスか?
 ダメですよ、休まなきゃ。」

確かに、桃城君の言う事はもっともだ。
でも、

「でも、何かしてなきゃって…思って…」

私は別に体調が悪かった訳じゃない。
決して仕事しなきゃなんて思いでもない。
何かしてなきゃ自分を保てなかっただけ。
悲劇のヒロインぶってる訳でも、良い子な訳でも無いの。

思わず顔が歪みそうになるのをこらえて唇を噛む。

「やりたかった、だけだから。」

大丈夫、まだ笑える。



私が曖昧に笑うと、みんな火が消えたように静まってしまった。
気にしているのだとしたら、申し訳無い話だ。
彼らが気にする事など、一つも無い。
心配してもらえるのだっておこがましいと思ってたくらいなのに。


その何とも言えない沈黙は、壁を殴った大きな音と彼の声に壊された。


「何で…何でそんなに頑張るんですか、いつもいつも!!」
「あ…かやくん?」


彼は肩を震わせて叫んだ。
その場に居た誰もが驚く、大きな―でも苦しそうな、今にも泣き出してしまいそうな声で。

理由も良く判らなかったけど、彼自身が一番ビックリしていたように思う。


「いや、何でも無いッス!!
 いいから早く!元気になって下さいね!」

ガタンと座っていたイスから立ち上がった時にはもういつもの赤也君で、ビッと指を突き出して口をとがらせた。

「ちゃんと眠るんだよ。」
「さっきみたいにベッドから出たらダメですよ!」
「お大事にッス。」

呆気に取られていた残りの人たちも、後ろに続く。

「うん、ありがと。」



パタンと扉が閉まり、再び音を無くす部屋。


寝るのにも飽きたなぁと思う。

出ちゃダメ、と言われると出たくなるのは人間の心理。
加えて私は、一つの事が気になるとどうしても終えるまで気が済まないタチだ。



そういえば。
大事な日課を忘れていた。





071007