いつもは気になんかしない神尾の聴く音が嫌に耳について。 眠れない・なんて、らしくねぇな。 頭から水でもぶっかけようと思って食堂の方に歩いて行くと 「げっ…」 「お前さん、何で起きとる。」 何故か熱出して顔赤くした、アイツが居て。 とっさに走ろうとするコイツと、同じく反射で手を掴む俺。 「見逃して下さい」 「アホ言うな。」 「ちょっとしたら…20分したら戻るから、さ。」 「どこがちょっとじゃ、どこが。」 何だ、と問い詰めると、小さく「…調理場の確認。」と呟いたのにはため息が出たが―そんなもん誰かにやらせればいいだろう―、 やると言ったらやるんだろう。一緒に食堂で点検をした。 ついでだから、夜風に当たる。 体に障るから、ほんのちょっとだけ。 俯いて頬を赤に染めているコイツは、やたらと色っぽくて戸惑う。 触れたくてたまらない。 そんな思いを紛らわすように、口を開いた。 「涼しいのぅ。寒くないか?」 「平気。」 「まぁ風邪っぴきなんじゃし、ちゃんと言いんしゃい。」 何だかちゃんと心配するのが気恥ずかしくて冗談めかして言ったけど、心からの言葉。 それを聞くと、彼女は予想しなかった笑みを零した。 「なん?」 変なことなんて言ってないはずだが、と少し不安になる。 「仁王に心配されるなんて、レアかも。」 彼女は赤い顔をこちらに向けて、へらっと笑った。 ああ、そうだ。 「…変やのう、本当に。」 判ってた、のにな。 もう駄目だった。 こみ上げる感情を抑えきれずに、横に座ってる彼女を抱きすくめた。 「うぎゃ!?」 「お前さんのせいでメチャクチャじゃ。」 「に…におう…?」 コイツが隠すから気になって、親しげな手塚や跡部にムカついて、 その執拗なまでの興味の理由。 らしくも無い。こんな事だなんて。 「好いとう。」 「…は?」 「お前さんの事、好いとうよ。」 本当は途中から、そうなのかもしれないと思っていた。 気付かないフリをしていた。 最初は本当にただの興味…―いや、違ったのかもしれない。 船で見かけたあの瞬間に、惹かれたような気もする。 だけど、そんなのあまりにも酷すぎるだろう? 理由になんかならん。 好きな子いじめの範囲はとうに越している。 「ほら良い子やけ、部屋に戻りんしゃい。」 「だっ、ちょっ、どういう…」 動揺する彼女に、立ち上がるよう促す。 本来のお前だったら、こんなに性急に真相を追っかけたりしないだろう。 ジワジワ網を張って、確信を得るまでは動かないタイプじゃねぇのか? アイツの、跡部の言葉に言い返せなかったのは、完全に図星だったから。 跡部に見抜かれて自分が判らんとは… 理由がこんなにもガキじみた事だったのにも失笑をせざるえない。 戸惑っている手をとって歩き出す。 「ばか。あつい。」 また俯くコイツ。 信じてもらえるなんて、思ってないから。 今までし続けたことを許せなんて、虫が良すぎるから。 ちゃんと、判ってるから。 「…早く戻って寝んしゃい。」 暑いのは、熱のせいだろう? 071020 戻