目で追う、君の姿。


見るたびに声をかけそうになる私が居る。
姿を探す。
どんなに遠くても、すぐに見つけてしまう。

自覚したらもうダメだった。
今側に居たら、好きと言ってしまいそうで怖かった。
だけどそれは―



頭を冷やそうと、とりあえず今日は全部の時間を海側で手伝うことにした。
日の傾いた海で佐伯君と一緒に薪になる流木を拾って、
「後は俺がやるね」と言って運んでいくのを見送ると、後ろから穏やかな彼の声。

「、お疲れ様。」
「幸村君。」

幸村君は私の隣まで来ると砂浜に座り込んで、
「佐伯って海遊びする割には焼けないよなー」と、きわめてのんびりした口調で言った。

こちらを見る目は座ることを促していて、抗うのもどうかと思って素直に従う。


「いい天気だな」
「うん。」
「暑いーってブン太はへばってたけど。」
「仕方ないよ。暑いもん。」
「だな…それも判ってるんだけど。」
「泳ぎたくなるねー」
「こら、病み上がりがそういう事言うのか?」
「だって…もう大丈夫だよ?」
「本当だろうね、それ。
 ―じゃあ明日さ、ちょっとだけ泳ぎに行かないか?」
「やった!実は私まだ泳いでないんだよねー。」

些細な楽しい会話。
きっと彼が一番したい話は、その延長のようにさらりと切り出された。


「は、何から逃げてるんだ?」

話し上手なんだな、幸村君って。
取り調べとか向いてるんじゃ無いだろうか。


「仁王…」


彼に隠してもどうやったってボロが出る。
それに、溜め込んだ思いの大きさにもう疲れた。
ため息のように出る言葉。


「仁王の事が、好きだから?」
「うん。」
「だったら、どうして。」


確かに、変な話だと思う。
自分が好いている人に想われてるなんて、滅多に無い事なんだから。
罰当たりな人間なんだろうな、私。

いや、むしろ、これが自分への罰なのかもしれない。



「私は、好きだって言っちゃいけないの。」


幸村君が目を見開いた。

それは、私がここに来て初めて自分から決めたことだった。








071110